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第百九十三話 天空城

「よろしくお願いします」

 私はフラフラになりながら、対局に向かった。

 相手は北沢さんという女性だった。


「よろしくお願いします」

 彼女も優しそうな笑顔でそう言った。


 私は力なく駒を並べた。


「ねえ、佐藤さん?」

「なんですか?」

「あなたって、奇襲大好きなんでしょ?」

「はい、まあ」

「実は私もなの。今日は楽しみましょう」

 私は黙ってうなづいた。今日は、うまく指せるか自信もない。


 お互いに奇襲の専門家ということもあって、どんな駒組になるか不安だったが、かなり穏やかな指しまわしになった。お互いに居飛車で、角換わりの戦い方になった。


 北沢さんに主導権が渡っているので、私は大人しく彼女の先導にしたがっていた。一応、私は普通の戦法もできるので、もしかするとこのままノーマル角換わりになるかもしれない。


 お互いにけん制したことで、得意な場面を避けてしまうような状況なのかもしれない。

 私は少しずつ対局に集中した。角交換が発生して、やはり普通の角換わりになっていく。

 私は、腰掛け銀を選択する。彼女も普通の陣形だった。そうここまでは……


 でも、北沢さんの陣形はここから一気に変容したのだ。

 奇襲マニアのわたしすらみたことがない異質な変化。


 そう、これはまるで空中に城を作るような手順だった。


挿絵(By みてみん)


 そして、天空城は完成した。

 一見、危険な位置にいるような敵の王は、がんじがらめに金と銀に守られている。

 そして、この陣形の最終目的はおそらく……


 天空城ごとの入玉……

 これを咎めることは難しい。


 私ははじめて見るこの状況にフリーズする。

 どうすればいいのか。皆目検討がつかない。


―――――――――――

人物紹介

北沢幸子……

高校二年生。アマ三段。女子。

振り飛車系の奇襲戦法を好むかな恵とは対照的に、居飛車系の奇襲戦法を好み、独自に定跡を改良している。


用語解説

天空城……

正式名称は「銀立ち陣」と呼ばれる奇襲戦法。

角換わりの奇襲戦法の一種。

異様な陣形に見えるが、完成してしまうと崩すのは至難の業。

この城ごと敵陣に突入する入玉を目指す異色戦法。

奇襲戦法だが、実は昭和中期にプロが指していたこともある列記とした戦法である。

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