第百八十九話 関係
「うう」
おれの隣で葵ちゃんは、涙ぐんでいた。
「葵ちゃん、そんなに泣くなよ。部長だってがんばったんだからさ。笑顔で出迎えてやろうよ」
「だって、部長。あんなにがんばっていたのに…… あんなに必死だったのに。私までくやしくなっちゃって」
おれもその姿を見て、もらい泣きを我慢した。
そう、あんな負け方をしたら、見ているだけでも苦しい。
「というか桂太先輩」
「なに?」
「どうして、のほほんとこんな場所にいるんですか?」
「えっ?」
「行くべき場所があるでしょ。はやく行ってください」
「……」
おれは無言でうなづいた。
「桂太先輩の大バカっ」
葵ちゃんはおれの背中に向けて、恨めしそうにそう言った。
※
「なんで、私は自分で送り出したのに、落ち込んでるんだろうね」
私は自虐的にそう言った。
※
私は、会場の入り口付近のベンチでうづくまっていた。
はやくみんなのもとにいかなくてはいけない。だって、わたしはぶちょうなんだから。そのせきにんをはたさないと。だいじょうぶ、まけるなんてよくあることじゃない。
自分ではそう思っても、動けない。
悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい。
病的なまでに、負けたことが悔しかった。
完全に山田くんに負けた。それも団体戦の決勝で。みんなに合わせる顔がない。私は、部長でみんなをひっぱっていかなくてはいけないのに。
情けない。
手に小さな水たまりができていた。顔がクシャクシャになっている。こんな顔、みんなには、桂太くんには見せられない。そう思っていたのに。
「部長っ!?」
その声にクシャクシャになった顔をあげる。聞きなれた声だった。今一番顔を見せたくなくて、今一番側にいて欲しい人。
「け、い、た、くん?」
私は、変な声で彼を出迎えた。
「泣いているんですか?」
見ればわかるでしょう?
「大丈夫ですよ。部長ががんばったのはみんなわかっていますから」
そうじゃないのっ。
「だから、大丈夫です」
彼は私の頭を撫でてくれる。自分はゲンキンな女だ。幸せだと思ってしまうのだから。
「桂太、くん」
私は彼に抱きついてしまった。この1年間やりたくてもできなかったことだ。
もういい。今日は感情に任せてしまう。
「悔しいよ。ごめんね。勝ちたかったよ。悔しいよ」
意味の分からない言葉をつぶやきながら、私は彼の胸に飛び込んでいた。




