第百八十八話 ポイント
「負けました」
私は、山田くんに投了した。
ギリギリで届かなかった。
持将棋模様の将棋ではルールが変わってしまう。
王様が0点。
飛車と角がそれぞれ5点。
それ以外の駒が、1点として換算される世界での駒の取り合いが発生するのだ。
その場合は、大駒を節約して、小駒をいかに多くとるかの泥試合になってしまう。
致命傷になったのは、王を逃がすために切り捨てざるをえなくなった角の存在だった。
32-22
これが将棋じゃない将棋でつけられてしまった点差だ。
悔しいがこれ以上良くなる手順は一切ない。
仮に粘り続けても、いたずらに手順が長くなるばかりで、みんなに悪影響しか残さない。
ここは身を引くのが、全体の流れを考えても最善……
だから、しかたない。
こういう言い訳をする自分が嫌だった。ここは勝たなくちゃいけなかった。どうして、もっといい手を思いつかなかったのか。
「いったい、どこから気がついていたの?」
私は、山田くんに聞く。
「う~ん、キミが王の上部を開拓していたから、もしかしてって思ってたんだ。キミの注意が、そこにいっていたから、自分も念のために、逃走経路を確保しておいたんだ。こっちが優勢だったし、ポイントなら勝てるだろうと楽観視していたよ」
この大魔王め。涼しい顔で言ってくれる。
この恨みは必ず個人戦とこの後の後輩たちが晴らしてくれるはず。
(頼んだわよ、みんな)
私は気持ちをそう繋げた。
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用語解説【今回は複雑かつほとんど使われないので、読み飛ばし推奨】
持将棋ルール……
王様が0点。飛車と角がそれぞれ5点。それ以外の駒が、1点として換算されて、ポイントの有無で勝敗を決定する。将棋で最も複雑なルールで、把握している人は少ない。自分も生涯で、5000局以上ネット将棋をしていますが、出現数は0。
今回登場した「27点ルール」以外にも「24点ルール」や「宣言方式」「トライルール」なども存在している。そのせいで、さらにルールが複雑化しているとも言える。
24点ルール……
プロ棋戦に採用されているルール。得点の数え方は上記と同じで、お互いに24点以上あれば引き分けとなる。
宣言方式……
これはさらに複雑なので、ご注意ください。
27点ルールを補完する方式。
①玉が、敵陣地の三段目以内
②先手の場合28点以上、後手の場合27点以上の持点がある。
③陣三段目以内の駒が、玉を除いて10枚以上存在
④持ち時間が残っていて、王手や詰めろが発生していない。
この条件を満たして、宣言をすれば勝者となる。
(将棋連盟のルールから抜粋)
トライルール……
複雑な持将棋のルールを簡略化させるために考案されたルール。公式では使われていないが、ネット将棋ではたまに採用されている。
自玉を、相手玉の初期位置に突撃させた方が勝ちになるルール。
自分もこの勝ち方なら、2~3回経験がある。




