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第百八十七話 最強の砦

 猛烈な攻撃によって、私の陣形は一気に崩された。

 このままでは、もう負けが決まってしまう。

 どうにかしなくてはいけない。


 普通の人ならそう考えるだろう。

 たぶん、山田くんもそう考えているはずだ。


 でも、これが私の作った「泥沼」なのだ。

 彼の持ち駒では、ギリギリで私を仕留めることはできないのだ。すべて計算して、作り出された盤上。相手陣内には、最強の駒「龍」と「馬」ができている。そして、王の前にいた駒たちは、この最強の駒たちが駆逐している。


 すべては、計画通り。

 王の逃げ場所であり、最強の守備陣が作られている敵陣地。

 そこに一直線で突き進めば、この状況は打破可能だ。


挿絵(By みてみん)


 そして、彼の手駒ではこの王の突撃を防ぐことはできないのだ。もしかすると、この奇策は彼の思考のエアポケットになっているのかもしれない。だから、大丈夫。読み抜けがあれば、一発で終わってしまうこの奇策。大胆な発想だ。さあ、彼はどんな顔をしてこの手を見ているのだろうか。私は、彼の顔を見つめる。


 彼は、悩んだ顔をしているはずだった。苦しい顔をしているはずだった。なのに……

 彼はいつもの涼しい顔をして笑っていたのだ。


 にこりとして、いつものように楽しそうに……

 それは未知の奇策を楽しんでいるように自信ある笑みを浮かべていたのだった。


 そして、彼は、私と同じように王を前に進めたのだ。まさか……


 相入玉をするつもりなの?


 ※


「まずいな」

「部長、まずいんですか? 詰みはなさそうですけど?」

 おれは、葵ちゃんと状況分析をしている。葵ちゃんは高速で詰みのあるなしを判断している。そこはさすがだなと思いつつ、解説を加えた。


「うん、詰みはないよ。だから、入玉もできると思う」

「なら、部長優勢ですよね。入玉したらとたんに寄せにくくなりますし」

「うん、でも、部長は山田さんの入玉も防げないんだよ」

「えっ?」

「つまり、ふたりとも入玉になってしまうということ」

「じゃあ、それって」

「うん、たぶん泥試合になるか、持将棋になるかもね」

「持将棋?」

 葵ちゃんは、将棋の世にも珍しいルールについて疑問に思ったようだ。


「将棋で唯一、引き分けになるルールなんだよ。数百局に1局くらいのペースで登場するんだ」

「あー、ルールブックに書いてあったかもしれません」

「本当に珍しいルールだから、よくわかっていないひとも多いんだ。お互いに、入玉して勝負がつかなくなった場合、駒をポイント化させて勝敗を決定するルール。同点だった場合は引き分け」

「ちなみに、部長の今の点数は……」

「ええと」

 おれたちは計算をはじめた。

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