表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

180/531

第百八十話 生け贄

 おれは、大会前の会話を思いだした。


 いつものように部室で、将棋をしている時、文人は言ったのだ。

 おれたちは、ふたりで角換わりの将棋の研究中だった。テーマは、一手損角換わり時の早繰り銀。プロでも難解というテーマについて、うんうんとうなっている時だった。


「なあ、桂太?」

「どうしたんだ。投了か?」

「まさか。まだ、始まったばかりだろう。だいたい、この盤面はおれが有利だ」

「いや、やっぱりお前が手損しているのだから、俺が有利なはずだ」

「いや、おれが」

「いやいや、おれが」

「じゃあ、私が」

「「どうぞ、どうぞ」」

 部長がおれたちの間に入ってきたので、お約束の展開をするおれたちだった。


「部長も来たし、ちょうどいいや」

「なによ、失礼ね。文人くん」

「実は、ふたりに相談があってさ……」

「なに?」「なんなのよ?」


「大事な話で、なにを妄想言ってるのかと思われるかもしれないんだけどさ……」

「なんか矛盾してねえか?」

「うん、矛盾してる」

「あんまり、笑わないで聞いてくださいってことですよ」


 おれたちは、ちょっと真面目になった文人の口調に、真剣にうなづかなくてはいけなくなった。


「もし、団体戦で、おれたちが決勝に進出して、千城高校と当たることになったらさ……」

「うん」

「おれを生け贄にしてくれない?」

「「生け贄?」」


 ※


「じゃあ、順番は当初の計画通りいくわ。先鋒は私。次鋒はかな恵ちゃん。中堅は文人くん。副将が葵ちゃん。大将が桂太くんでいくわ」

「本当にいいのか、文人?」

「ああ、やってくれ」

 おれは何度も文人に確認した。この順番でいくのはなぜか?

 それは、千城高校最強の男「山田」さんが、毎回中堅のポジションに座るからだ。

 先鋒と中堅に橋田さんと山田さんという両エースを配置して、一気に勝負を決めてくるスタイルを得意としていた。

 このオーダーは、変わることのない不文律として知られている。これを逆手にとって、先鋒と中堅を捨て石にする学校もあるのだが、ぶ厚い選手層の影響で対策にならないのが実情だ。


 だが、おれたちの学校なら違う。

 文人は優勝するために、冷酷な分析をしていた。


「正直、自分で言うのもなんだけど、おれたちのチームで一番の穴は俺だと思ってる。ああ、自覚しているから慰めはいらないよ。他のメンバーは千城高校のスタメンと比べても遜色ないと思うんだ。でも、俺は…… だから、俺が山田さんとぶつかって捨て石になることで、他のみんなで勝ってもらって優勝する。それが最善手だ。もちろん、山田さんには勝つ気でやるよ。だから、そんな顔するなって」


 おれたちは、文人の覚悟を無駄にしないために、その提案を受け入れたのだ。

 しかし、盤上の神さまは、そんなに優しい存在ではなかったのだ。

 なぜなら……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ