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第百七十四話 キズナ

「えっ」

「だから、言っただろう。将棋部の発足は条件的に認めるけど、結果を出さなくちゃいけない。つまり、今は仮免許の状態だよ」

「部員だって、規定通り集まりました」

「たしかに、規定の下限には達したよ。でも、まだ、なにも部活としての実績はゼロだろ。それじゃあ、いけない。今度、大会があるんだよね」

「はい、夏の大会が……」

「じゃあ、そこで、わかりやすい結果を出してきなよ。そうすれば、仮免許から本免許になるし」

「結果って……」

「まあ、決勝進出くらいは、欲しいよね。松井君も知ってると思うけど、うちの高校の運動部はどこも強豪ぞろいでしょ? 限りある部費を、有効的に使うためにも、結果を示してもらわなくてはいけないんだよ。特に、将棋のような文化部は、ね」

「決勝……」

「ああ、無理だったら、諦めてくれ。同好会として、学校の外でやってもらう分には、なんの問題もないからさ」

 教頭先生は、そう事務的に私に宣告した。

 私たちの学校には将棋部はなかった。だから、みんなで、発足した。

 でも、現実はとても冷たかった。


 私たちの居場所はなくなるかもしれない。


 だから、ここでは負けられないのだ。そうすれば、私たちの居場所は、居場所であり続ける。


 だけど、現実という無慈悲な神さまは、米山香という超強豪の姿を借りて私の目前に出現したのだ。

 彼女を倒さなくては、世界は変わらない。

 私は、ここで「革命」を起こさなくてはいけないのだ。そうしなければ、世界は私たちに牙を向くだろう。


 部活のみんなは、少し変わった人だ。私も含めて。

 みんな、一般の人たちから見れば、少し変だから、嫌な事だってたくさん経験した。でも、それでもよかったと私は思っている。


 だって、みんなと会えたのだから。

 そして、今の私がある。

 これは、誰も、たとえ、神さまだって変えることができない真実だ。

 盤上の真理には、私たちアマチュアは届くことができないと思う。

 でも、盤外の真理には、簡単に届きうる。

 

 そんなの考える必要もない。だって、ここにあるのだから。


「マチルダ、桜子、貴子、智美(さとみ)。みんな大好き」

 私は、小声で愛を告白した。みんなには、いや前にいる米山香にも聞こえていないだろう。

 でも、それでいいのだ。

 これが盤外の真理なのだから。


(米山? 強いよね。序盤・中盤・終盤。隙がないと思うよ。でも、私は負けないよ)

 みんなに届くといいな。

 みんなの声は、もう痛いほど伝わったのだから。


 ここから先は、もう将棋じゃない。

 たどりついて、未だ山麓。

 ここで消えるわけにはいかない。

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