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第百七十話 ねじりあい

 ねじりあいが続いていた。彼女は、角を狙撃地点に移して、飛車を守る銀を排除し、倒そうとしている。こちらは、それをひたすら凌いで、逆襲の機会をうかがい続けた。嫌なねじり合いが続いた。形勢は向こうの有利。どこかで逆転しなくてはいけない。焦りが少しずつ生まれていく。


 彼女は小駒の動きを使って、銀をどうにか移動させようとしている。このままだと、銀の防波堤は決壊寸前だ。


 どうしよう。このままだと負ける。


 小さいころから私は、いつもいじめられていた。そんなに凄惨ないじめだったとかではないのだけど、「男女」とかいつもからかわれていたのだ。自分では普通にふるまっているつもりでも、みんなとはずれてしまう。どんどん居場所がなくなっていった。


 そんな時、わたしをひろってくれたのが部活のみんなだった。

 自分の変な状況を、「かわいい」とか認めてくれるみんなが大好きだった。


 もっとみんなで将棋をしたい。いままで周りに流されて生きていてきたわたしが望んだ唯一の願いだ。


 このままではじり貧間違いなし。ならば、攻め合うしかない。お互いにギリギリの局面を作ってしまえば、もしかしたら相手は間違えてくれるかもしれない。

 

 私は桂馬を跳躍させて、相手の飛車に奇襲をかけた。

 ノーガードの撃ちあいがはじまった。


 ※


「勝った、な」

「ああって、部長? どうして、いきなりエヴ〇ネタですか?」

「やっぱり緊迫感あるときはこれに限るでしょ」

「まあ、それもそうなんですけど」

「でも、ラッキーだったわ。一ノ瀬さんが攻め合いを選んでくれて」

「一気に終盤に突入するからですか?」

「そう。多少の不利でも、葵ちゃんの終盤力ならひっくり返せる。お互いにノーガードの時のほうが、彼女の魅力が生きるわ」

「そうですね。部長ならどう戦いますか? 葵ちゃんと?」

「私なら、そうね。相振り飛車に誘導して、一気に持久戦模様の力戦にするわ。そうすれば、彼女の弱点を突きやすい」

「見慣れない序盤でポイントを稼いで、わかりやすく大差を作るんですね」

「そう。あの終盤力と直線的に切りあいしてしまうと、圧倒的に不利。だから、曲線的に攻める」

「それしかないですよね」

「うん。間違いない」

 県最強クラスの部長ですら、その結論に達してしまうほど葵ちゃんは驚異的な存在なのだと思う。


 一ノ瀬さんは、負けたくない、負けたくない、俺は負けたくない。

 そんな心の声が聞こえてくるような指し方だった。

 でも、将棋は残酷だった。終盤がはじまる。

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