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第百六十五話 勝利と因縁③

 私は最初の目的通りに金をドンドン前進させた。

 金を使って敵の攻撃を抑え込んでいくのが、この作戦の肝だ。片美濃囲いも作れたので、攻守のバランスもなかなかよいはずだ。


 敵の陣地をゆっくりと押しつぶす方針で駒組を進める。この戦法を使えばわかるのだが、金の制圧力はかなり高い。いつもは守備駒としてしか利用されないのでわかりにくいが、攻撃参加させることでわかる金の強みだ。じわじわと陣地を制圧するその攻め方は戦車のように頼もしい。


 桜子は、角を投入して、カウンターをもくろむが私の桂馬と角の連携によって狙いを潰される。

 ここまでは、私が有利な状況だ。

 当初の目的を果たして、相手のカウンターを受け止めている。桜子側がなにかしなくては、いけなくなる状況を作り出した。


 このまま、攻め潰す。相手に手番は渡さない。

 桜子と対局していた時のように。小学生の時のように。私は彼女の陣形を押しつぶそうと動いた。


 彼女と戦う時はいつもこうだった。お互いが攻め将棋。定跡無用の攻め合いで、ほとんど私が彼女の陣形を押しつぶして勝っていた。だから、今回も……


 思いだしたくない記憶をたどりながら、私は駒を進める。


 ※


(負けたくない。特に、こいつには。かな恵には…… 負けたくない)

 私は、徐々に押しつぶされていく自分の陣形を眺めながら、必死に考える。

 ここで負けたら、みんなに…… マチルダに…… そして、先生にも顔向けできない。


 このままでは、昔と同じ状況になる。

 当時の私は、かな恵にほとんど勝てなかった。同じ時期に将棋をはじめて、同じ先生に教わって、同じような棋風なのに……

 彼女は、ずっとわたしの上にいた。


 当時の私はそれを普通だとも思っていた。かな恵は、すごいやって本気で思っていた。今考えると、反吐が出る。そんな風に悔しいとも思わずに、ヘラヘラしていた私が嫌いだ。


 そして、私には守りたい仲間もいる。

 ここで負けたら、たぶん私たちはもう一緒にいられない。

 負けたら、終わりだ。楽しかったこの将棋生活も終わり。


 かな恵とけんか別れしてから、私は孤独だった。

 そんな私に光を見せてくれたのが、部活のみんなだった。

  

 だから、私は頑張らなくちゃいけないんだ。かな恵と喧嘩してしまって、失った居場所を再び失うなんて嫌だ。


 ※


「また、邪魔するんだね、かな恵」

「えっ?」

 桜子は、小声で私に呼びかける。

 その言葉に……

 私は……


 動揺した。


「私の居場所は、もう、壊させない」

 桜子は、激しい気迫で駒を盤に打ち付ける。


 5筋からのカウンター攻撃だった。

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