第十六話 入学式
「じゃあ、ふたりとも……いってらっしゃい」
尚子さんが、笑顔でそう言った。父さんは嬉しそうに、デジカメでおれたちの制服姿を撮っていた。あの、おれはこの一年間毎日、制服着てたんだけどね。
今日は、かな恵さんの入学式だ。在校生は、休みなのだが、入学式後に部活見学もあるので、おれはその準備として部長に呼ばれている。
父さんは、すっかり美少女の娘に夢中になっていた。
「やっぱり、尚子さんの娘さんはかわいい。お母さんのDNAすごすぎ」
そう言って、子供たちの前でのろけていた。すっかり親ばかだ。ちなみに、尚子さんもまんざらじゃない顔だった。新婚そうそうお熱いことで……。
「「いってきます」」
おれたちは元気よくそう言った。とても気恥ずかしったけど、とても嬉しかった。
「ところで、いいのか? 兄と一緒に登校なんて恥ずかしいでしょ?」
「そんなことないですよ。私は方向音痴なので、とても頼りになります」
かな恵さんは、ちょっと恥ずかしそうな笑顔でそう言う。その魅力にクラっとする。だが、妹だ。
「そうだ、これ忘れないうちに、渡しておかないと」
真新しいブレザーに身を包む我が自慢の義妹におれは包装紙に包まれた小さな箱を渡した。
「これは……」
かな恵さんは不思議そうな顔をしている。
「入学祝いだよ。おれと父さんから。安物の万年筆……」
「えっ、本当ですかっ! 嬉しい。いつの間に用意をしてくれていたんですか?」
「この前の部活がえりに……。父さんから提案されてさ。忙しくて、まだかな恵さんとあんまり話せてないので、入学祝を送って仲良くなりたいんだってさ。それにおれも乗っかって、一緒に買いに行ったんだ」
おれは、洗いざらい白状した。もう少し伏せておいたほうがよかったかなと思うほど……。
「あ、ありがとうございます。ふたりとも大好きです」
そう言って、かな恵はおれに抱きついた。
「あっ、ちょっと待って」
新入生一同が見守る衆人環視のなかで……。
「ちっ、入学早々リア充かよ」
「あんなさえない男が、あんな美少女と」
「というか、あの子かわいくない」
「めちゃくちゃ、かわいい」
「ばーくはつ、ばーくはつ!」
ギャラリーの阿鼻叫喚が聞こえた。
「け・い・た・く・ん」
「おうおう、お熱いね。ふたりとも。あっ、やっぱりこの子ですよ、部長。おれがこの前桂太との密会現場をみたのは」
最悪の現場に、最悪の証人が立ち会っていた。
「部長……。文人……」
血の気が引いていく。
「ぶ・ち・こ・ろ・し・か・く・て・い・ね」
校門前の桜の色がいつもよりも赤くなったのは言うまでもない。




