第百五十六話 歓声
俺は、部員たちをまとめて、労をねぎらい、トイレへと駆け込んだ。みんなはがんばってくれたのだから、俺がこんな顔をしてはいけないのだ。そして、個室で一気に感情を爆発させる。最後の大会が終わってしまった。まだ、個人戦はあるんだけど、部員たちとやる戦いはここまでだ。みんな頑張ってくれた。対米山戦の秘策もあった。対佐藤戦の対策も用意していた。なのに……
すべては、米山の隠し玉によって、すべてがぶち壊されたのだ。
俺が考えていた対策は、すべて粉砕されて、もっとも自信があった終盤戦で、自分以上の実力と才能をみせつけられて敗北した。もっとも屈辱的な負け方だ。俺は、将棋を覚えて10年以上経つが、そのすべてを否定されたような状況だった。
「源葵」。あの子は間違いなく天才だ。あの才能は下手をすれば、プロにすら届きうる。
それを俺にぶつける。同じ終盤型の俺にぶつけることで、確実に勝利をものにする。勝負師、米山香の策略だったのだろう。あいつの勝負への執念をなめていた。
完全に自分の作戦ミスだった。米山か佐藤のどちらかとぶつかり、勝利し後ろへとつなげる。それが俺の達さなくてはいけない問題だったのにそれができなかった。あげくに、相手が別の女の子だと思うと、相手の力を過小評価して敗北。さらに、敵チームには、2人の強豪が温存しているという最悪の状況を作り出してしまった。
勝たなくてはいけなかった。
あとに控えるメンバーのためにも……
俺が、がんばった三年間のためにも……
気持ちを切り替えて、明日の個人戦に挑まなくてはいけない。ここで終わりたくはない。
俺は、気分を切り替えて外に出た。
しかし、それは最悪のタイミングだった。
扉の外には、米山がいたのだから……
「あら、甘枝くん」
彼女はいつものように俺に話しかけてきた。
「ああ、米山か? 準決勝進出おめでとう」
「ありがとう」
「さっきの女の子。源さんだっけ? 完全にやられたよ。いつからあんな隠し玉用意してたんだ?」
「つい2か月前よ」
「そっか。じゃあ、俺はここで。明日、準決勝で会おうぜ」
俺は、そう言ってその場を逃げ出した。
※
「無理よ。甘枝くん」
「だって、あなたは準決勝にはたどり着けないのだから」
彼は、明日、3回戦で葵ちゃんと戦う組み合わせになっていた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
会場からは、大声が響いた。
きっとベスト4が全部でそろったのだろう。
わたしは、それを確かめるために会場へと戻った。




