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第百五十五話 勝利

「勝てた」

 わたしは、対局が終わると現実世界に戻された。無意識の状態で、指し続けてしまった。もちろん、考えてはいた。いたんだけど……


 どう考えていたのかはよくわからない。思考は光に包まれて、まぶしすぎて見えなかった。瞬間的にどうすればいいのか判断できたような気がする。特に最後の詰みは、狙っていた形だったんだけど、それが予想以上にうまくいきすぎた。たぶん、相手も油断してくれたのだろう。


 攻め駒は何もなくて、ほとんど持ち駒だけで詰ませる。強引な勝ち方だった。でも、最初から狙っていた形に誘導できたのだ。たぶん、これを完勝だと言うのだろう。


 わたしは、以前解いたことがある詰将棋と同じ形に甘枝さんを誘導させた。相手が油断してくれて、まるで詰まないような形から詰ませることができたのだ。


「よかった」

 初戦を勝利で飾ったことからの安心感か……

 わたしは、急に疲れがでてきてしまった。


「おめでとう、葵ちゃん。わたしの考え通りよ。最高の結果よ」

「最後の詰み、やばかった。葵ちゃんすごいよ」

 部長と桂太先輩が祝福してくれる。本当に勝てたんだ。そう思って、やっと笑顔を作ることができた。みんなに喜んでもらえた。それだけでもう満足だ。


 わたしは、相手の陣営をのぞきこんだ。かなりのお通夜状態だ。確実に勝たなくちゃいけない相手が負けてしまったのだ。どんなに言葉を紡いでも、ショックは消えることがないだろう。これでわたしたちが精神的に優位に立つことができたのだ。将棋の勝敗は、メンタルが強く影響する。本来ならば勝たなくてはいけない勝負に負けた。あとふたりは、うちの学校の2強だと考えると向こうの学校のひとたちは、すごいプレッシャーがかかるだろう。そのプレッシャーが、思考を鈍らせる。そして、それが悪手を生むのだ。


「じゃあ、わたしと桂太くんで一気に決めるわよ」

「はい」


 2番手は、部長。中堅は、桂太先輩のようだ。

 相手は、このふたりのどちらかを甘枝さんで相殺したかったはずなのに……


 そんな無言の訴えが聞こえてきそうだ。

 

 でも、これは勝負だから。相手が弱点をみせたら無情でもなんでもつかなくちゃいけない。

 わたしは、ふたりを全力で応援した。


 ※


「負けました」

 相手の3年生は、桂太先輩にそう言ってチカラ無く言った。頭を下げたまま、なかなか上げようとはしなかった。


 わたしたちの学校は、3-0で準決勝進出を確定させた。それは同時に桜町高校の敗退が決まった瞬間だった。

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