第百五十一話 波乱
すでにはじまった団体戦は、強豪校が続々と勝ち上がってきた。しかし、ひとつだけ台風が発生していた。
見たことがない学校の将棋部が勝ち上がっていたのだった。その高校は、女子しか部員がいなかった。たぶん、みんな1年生だ。それもみんな無名の選手ばかり。なんとか部活を結成できた1年目の弱小将棋部。みんなそう考えていたはずだ。
それも、初戦は強豪の竜洋高校だ。この高校は、昨年ベスト8、前々年ベスト4という安定した成績を誇っている。おおかたの予想では、竜洋高校の圧倒的な有利。しかし、現実は無常だった。3-0。圧倒的なスコアで敗れたのは竜洋高校だった。竜洋高校のスタメンたちは、有段者で、なかなか手ごわいはずだった。しかし、終わってみれば、ストレート負け。それも内容でも完敗である。
大会の観戦者たちは、言葉を失いその無慈悲な現実を見ていた。
その様子を竜洋高校の部員は茫然とみることしかできていなかった。なにがおきたのかわからない。みんなそんな顔をしていた。グループリーグ首位しか決勝トーナメントには進めない過酷なリーグ戦。この1敗は竜洋高校にとって致命傷になった。5年ぶりの予選敗退。そして、代わりに決勝トーナメントに進出したのは西田東高校。女子しかいないみたことがない将棋部だった。
その一つの波乱以外は、おおむね順当な結果となった。千城高校、おれたち、常磐高校、橋本高校の4シードに加えて、グループリーグを勝ち残った西田東高校、桜町高校、房海高校、隆線高校。この8校によるトーナメントで優勝、そして、全国大会へのたったひとつの切符を争うこととなった。
おれたちの初戦の相手は、桜町高校だった。その勝者が、橋本高校対西田東高校との勝者と準決勝を争うこととなる。
桜町高校。前回のベスト8であり、個人戦3位の甘枝至を要する強豪だ。
エースの甘枝さんを、先鋒に据えて3連勝を目指す積極的なチームとして有名だった。この場合の組み合わせをどうするか。部長と高柳先生は、少しだけ打ち合わせをする。出る順番を確定させるようだ。問題は甘枝さんと誰がぶつかるかだが……
普通に考えたら、エースvsエースで部長がでるのがセオリーだろう。団体戦の初戦は、確実に勝つことが求められる。ならば、最高戦力同士をぶつけるのが定跡だが……
「桂太くん、ちょっといい?」
「はい」
おれは、ふたりに呼ばれた。
「先鋒は……でいこうと思うんだけど、どう思う?」
「最善手だと思います」
おれは即答した。




