表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

142/531

第百四十二話 かえりみち

「じゃあ、帰りましょうか? 兄さん?」

「お、おう」

 おれたちは、駅前のショッピングモールで、大量の買い物をしていた。この前の反省から、かな恵はたくさん服を買いたかったらしい。どうも、引っ越しのため、かなりの服を処分したのが前回の敗因だったとかなんとかリアル生活の感想戦という名の言い訳をしていた。


 しかし、たくさん買いすぎて重い。


「ああ、今日は楽しかった」

 かな恵はすっかり機嫌を直していた。よかった、昨日から針の(むしろ)だったからな。これで少しは救われた。


「兄さん、聞いてもいいですか?」

「なに?」

「兄さんは、どうして将棋をやっているんですか?」

「かなり、重そうなテーマなんですが」

「真面目な話です。茶化さないでください」

「えーっと、将棋は父さんが教えてくれてさ」

「はい」

「母さんが死んで、父さんは仕事であんまり帰ってこない。少しでも、気が紛れればと父さんが考えてくれたんだと思うんだ。おれも、小さかったから、かなり塞ぎこんでいたし」

「……」

「で、やってみたら、最高に楽しかったんだ。近所の道場やネット将棋に、なんか居場所みたいなものを見つけたみたいで。父さんも大学で将棋部だったから、親子の共通の話題も増えたし」

「そこからは、将棋漬けの日々ですか?」

「これで、プロにでもなったらカッコイイだろうけど、ね」

「十分、兄さんは、カッコイイですよ」

「えっ?」

「なんでもないです」

 おれは、うまく聞き取れなかったので聞き返したら、怒られてしまった。


「ちなみに、かな恵はどうなんだ? かな恵も亡くなったお父さんから教えてもらったんだろう?」

「はい、そうです」

「それが、あんなに将棋を辛そうに指す理由?」

「そう、かもしれませんね。わたしにとって、将棋は亡くなった父との最後の絆で、呪いみたいなものなのかもしれません」

「呪い?」

「はい、呪いです。将棋をすれば、父と会えた気分になる。でも、それが逆に苦しくもある」

「そっか」

 故人との絆、か。


「でも、兄さんたちと暮らしてからは、これでもその苦しさからかなり解放されたんです。だから、本当に感謝しても…… しきれないというか……」

 かな恵の声はきゅうに小さくなる。


 なんだか、むずがゆい気がする。きゅうにできた妹とこんな感じになる。こういう風に家族って作っていくものなんだろうか。


 高校生のおれにはよくわからなかった。だって、数か月前まで、こんなことになるなんて予想だにしていなかったのだから。


 でも、これは、とても幸せな時間だとおれは思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ