第百四十一話 本音
「やっぱり、強いですね」
「そりゃあ、そうでしょ。弱かったら、キミには勝てないし」
「喜んでいいのか、悲しんでいいのか」
「喜んでいいんじゃない?」
「それって、自信満々発言だって気がついてますか?」
「自信がなきゃ、将棋なんか勝てないでしょ」
俺たちは、感想戦中も、ひたすらぼやき続けた。
「先生を泥沼に引きずりこもうと思っていたのに、全然そんなふうになりませんでした」
「だって、泥沼に引きこまれないように、盤面をわかりやすく整理したからね。優勢の時は、そうしたほうが簡単でしょ」
「あのでたらめな序盤を、中盤でひっくり返す腕力が半端ないです」
「それはいつものこと」
「ま、そうなんですけど……」
「さて、本題に入ろうか?」
俺は、感想戦を終えると、少し真面目な口調にする。
「なんですか?」
「もうすぐ、キミにとっては高校生活最後の大会だ。是が非でも、優勝したいと考えているはずだ」
「そりゃあ、そうですよ」
「なのに、どうして、ライバルを増やすような行動を取っているのかなって、俺はつねづね疑問に思っているんだよ?」
「佐藤兄妹、葵ちゃんのことですね」
「そう、彼らに、キミは道を示しすぎている。たしかに、部活の後輩だ。でも、俺から見ると、キミの厚意は自殺点のようにもみえてしまう」
「先生、個人戦に集中しすぎて、団体戦を軽視していたタイプですよね」
「むう」
「わたしは、個人でも、団体でも、どちらでも優勝したいんです」
「ずいぶん、贅沢なことだ」
「はい、わたしは、かなりワガママなんですよ」
「知ってる」
「それに、わたしも慈善事業で彼らを導いているわけじゃないんですよ」
「じゃあ、どうして?」
「彼らを強くして、わたしも一緒に強くなる」
「……」
「そして、わたしが欲しいものを、すべて手にいれる」
彼女は、力強く断言した。
彼女のこういうハングリー精神は、素直に凄いと思う。
俺たちの時代の大名人は、多忙で時間がないにも関わらず、若手の挑戦者たちの研究にあえて乗っかって、研究をひっくり返し勝っていた。そして、勝った後に、今後自分が不利になるかもしれないのに、考えを素直に述べてしまうのだ。
対局の場で、さらに強くなっていったように見えた彼の様子が、彼女と重なる。周りを強くして、それを倒すことで自分も強くなる。大魔王とか鬼畜メガネとか言われていた。
「最終的には、私が勝ちます、か」
「はい、そうです」
俺は、彼女の若々しさが眩しくなった。




