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第百四十話 力戦勝負②

 やはり、先手側が攻撃をしかけてきた。彼女はおれと違ってしっかりと研究している。これは、しばらく苦しい時間が続くだろうな。おれはそう考えてため息をつく。


 まあ、これもいつものことだ。おれの将棋はいつも逆転将棋。力強く泥臭いアマチュアの将棋だ。米山は、こんなおれの将棋が好きらしい。たしかにプロにはいないタイプだとは思うけど、センスは悪いやつだ。彼女は、俺の棋譜を見て、俺にあこがれを抱いたらしい。表舞台から完全に消えていた俺の所在を探し当てて、この学校に入学するという徹底ぶりだ。俺は、すでに正体を隠して引退の身だったのだが、あえなく彼女に付き合わされてしまった。


 俺が、練習相手になる条件はいくつかあった。

①俺の素性をばらさないこと 

②1週間に1局を目安にすること 

③顧問は名義貸しみたいなもんだから、部の運営は代わりにしっかりやること


 彼女はこの条件をのんで、秘密を共有した。まあ、もうひとり、ばれてしまったんだけどね。さて、どうしたもんか? 徐々に形勢を悪くしていく陣形をのぞきこみながら、おれは悲嘆にくれるのだった。


「まったく、ヤレヤレだぜ」

「相変わらず、センセは、序盤下手だよね」

「まあ、ハンディみたいなもんだよ」

「いつもよくこれで勝てるなと尊敬しますよ」

「まあ、駒落ち上手も得意だからな」

 そう、駒落ちの経験がここでは生きるのだ。不利になった場合は、相手にどこかで間違わせなくてはいけない。駒落ちもそうだ。駒が無いから、普通にやっていたら勝てないのだ。相手を間違わせてこそのはったり将棋。俺は訓練のために、たくさんの駒落ち将棋を経験している。


 相手を強くさせるための駒落ちではなくて、自分が強くなるための駒落ち上手。本当に嫌な奴だったはずだ。だが、こうして、俺は殺し屋になったのだ。現役の当時は他にも”妖刀”とか”はったり将棋”とかいろんな呼び方をされた。それを名誉なことだと感じていた俺はちょっと特殊だったな。今になってそう思う。


 だから、俺の将棋は体で覚えたものだ。米山や文人のような、優等生タイプじゃない。

 たぶん、佐藤兄妹が俺に近いはずだ。


 あいつらの将棋からは、俺と似たものを感じる。

 底知れぬハングリーさというか、誰かと将棋で繋がっていたいという一種の懇願のようなものがある。


 俺と似ているから、米山はあのふたりにご執心なのだろう。もちろん、将棋の話だ。

 あいつが、桂太に執心なのは、それだけじゃないというのはわかりきっている。


「負けました」

 俺は、教え子を盤上で切り捨てた。

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