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第百三十六話 苦悩

 おれは、休みの日だが、高柳先生に会いに学校に来ていた。昨日相談があると連絡したら「職員室で、残業するからいつでも来い」と言われた。お言葉に甘えて、おれは職員室の扉にノックしているのだ。高柳先生にすべてを教わるために。


「失礼します」

「ああ、いらっしゃい。お茶でも飲む?」

「いえ、お構いなく」

「ああ、そう。それにしても、珍しいね。文人くんがぼくを呼びだすなんて……」

「すいません。休みの日に……」

「気にしなくていいよ。相談もしごとのうち。まあ、だいたいわかるけどさ」

「ありがとうございます」

「強くなりたいんでしょ? この前の練習試合がとても悔しかったから?」

「はい」

「でも、なぜ、ぼくなんだい? そういう相談は米山君のほうが適任だと思うけど……」

「先生以外に適任者はいないと思いますよ。だって、先生、()()()()()()()()ですよね?」

 先生はぼくの発言に不敵に笑った。

「ばれちゃった?」

「はい。調べました。先生は、大学時代に、「池袋の殺し屋」という異名がついた強豪で、大学在学中にアマチュア名人戦も2連覇してますよね。そして、その優勝で獲得したプロ棋戦へ参加。プロ4人をまたたくまに撃破して、当時のA級プロに惜敗した「プロ殺し」と」

「古い話だよ」

「それを花道に勇退して、表舞台からは完全に姿を消した伝説の人物」

「てれちゃうね」

「定跡無用の力戦系四間飛車や角換わりを得意とした逆転の達人」

「ただ、序盤が下手なだけだよ」

 おれの調べた事実を、先生は笑って否定していく。


「だから、おれの将棋を見て、どうだか教えてほしいんです。今、冷静に考えて、おれは完全に後輩の葵ちゃんやかな恵ちゃんに負けています。でも、このままじゃ悔しいんですよ。どうにかして、みんなに追いつきたい」

「わかったよ。じゃあ、特別に稽古をつけてあげよう」

「あ、ありがとうございます」

「そうだな、手合いは……」


 普通なら、「飛車落ち」や「角落ち」が適正だ。少し余裕を考えれば、「2枚落ち」か。


「「4枚落ち」でやってみようか?」


―――――――――――――――――――――――――

用語解説

A級……

将棋界のトッププロ10人のリーグのこと。優勝者が名人に挑戦できる。


4枚落ち……

上手い方が、飛車と角、香車2枚の合計四枚を落とすハンディ戦。段位が8段程度離れた人との対局に用いられる。

今回の場合は、文人が二段、先生が六段のため、かなり無理があるハンディ戦となる。


2枚落ち……

上手い方が、飛車と角を落とすハンディ戦。段位が6段程度離れた人との対局に用いられる。


飛車落ち……

上手い方が、飛車を落とすハンディ戦。段位が4段程度離れた人との対局に用いられる。ふたりの場合はここら辺が適正なハンディとなる。


角落ち……

上手い方が、角を落とすハンディ戦。段位が3段程度離れた人との対局に用いられる。

プロのタイトルホルダーと、アマチュア名人がこれくらいのハンディ戦が適正。プロはやっぱりすごい。

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