第百三十五話 カフェ
映画館をでた後で、おれたちは近くのハワイアンカフェに来ていた。かな恵がどうしても行きたいと言っていたお店だった。おれは、ロコモコ丼を注文し、かな恵はパンケーキを食べている。テラス席で、男女ふたり。なんという、リア充展開。だが、妹だ。繰り返す、だが妹だ。決して、それを間違えぬように、おれは自分の心に深く深く刻み込む。ここで悪手は指してはいけない。
「美味しいですね」
「うん」
たしかにこのお店の料理は美味しかった。ロコモコのハンバーグは、デミグラスソースが独特でコクがある。肉のうまみが凝縮した一品だった。こんなに肉肉しいハンバーグは、男子高校生にとってはご馳走である。
「よかったら一口食べませんか?」
「ありがとう」
おれは、パンケーキをもらう代わりに、ロコモコをかな恵にあげた。パンケーキは食感がフワフワで、バターの香りが口の中に充満する。ああ、幸せ。メープルシロップもよいものを使っている。優しい味わいだ。
あー、妹とはいえ、美少女とおしゃれなカフェで美味しいごはん。至高のひととき。こんなに幸せで、どこかに落とし穴でもあるんじゃねえかな。おれは、ちょっとだけ、怖くなった。そして、その直感は、やはりというか、なんというか……
当たるものなのである。
「あれ、桂太じゃん。かな恵ちゃんも。今日はデートかな?」
この一言がおれを現実に引き戻した。
「文人……」
「丸内先輩」
文人は休日なのに、制服を着ていた。
「よっ!」
文人は軽い感じでおれたちにあいさつをする。
「やっぱり、ふたりともそんな関係だったのか」
「ちが、ああああああ」
おれが慌てて否定をしようとすると、急にかな恵の足がおれの弁慶の泣き所である「すね」を強打する。手だけでなく、足にまで追撃され、激痛で声は遮られた。なんか、最近、こういうこと多くない!? みんなもう少しおれをいたわってよ。当たり前だけど、心の声は、誰にも聞こえない。
「なるほど禁断の逢引きというやつか? お邪魔虫は退散するよ。じゃあ、また明日。学校で」
文人はそう、にやにやしながらどこかに行ってしまった。なにも弁明できなかった。これで、おれは妹に手を出した変態兄貴のレッテルをはられるのだ。たぶん、部内でもクラスでも……
「終わった。おれの青春……」
ハワイアンの陽気な音楽とは、反対におれは人生の詰めろを逃れる手段を必死に考える。詰めろ逃れの詰めろは見つかるはずがなかった……
ロコモコうめえや。




