第百三十四話 映画②
おれは、妹と映画を見ている。それもガチの恋愛映画だ。これなんて罰ゲーム? 気まずい。ラブシーンとかあったら最高に気まずい。おれは別の意味でドキドキしながら映画を見ていた。
そもそもかな恵は平気なのかな。おれみたいな兄貴と、こんなロマンティックな映画を観て……
おれが、かな恵の隣にいて、本当にいいのかな。もっと魅力的なひとが側にいるべき女性じゃないのか。おれは、そんな馬鹿なことを考えてため息をついた。こんなことを考えている時点で、おれはかな恵に失礼なのだ。せっかく、誘ってもらったことだし、映画に集中しよう。
でも、たしかに、おもしろい映画なのだ。やっぱり、原作がしっかりしているからなのか。おれは少しずつ物語に引き込まれていく。いつの間にかポップコーンを食べる手も止まっていた。
そして、物語の転の部分で事件は起きた。
映画のカップルは、無事に恋を育んでいくのだが、女子側に病気が発覚する王道展開だ。苦悩していくふたり。少しずつ崩れていくふたりの関係。死の恐怖におびえる彼女……
少しだけ、目がウルウルしてくる展開だった。おれは、少しだけ涙をぬぐおうとした。その手にかな恵の手がおれに触れたのだ……
そして、彼女の手はおれの拳を包み込んだ。
(えっ……)
なに、この展開。よくカップルの映画デートで見る展開だ。まさか、かな恵は、本当におれのこと…… たしかに、そんな様子はちらほら見えた。でも、おれたち、兄妹だし…… そんな禁断の関係、許されるわけが……
映画の内容以上に動揺するおれを知ってか知らずか、かな恵の手は力が籠ってきた。物語も終盤に向かってどんどん進んでいく。
クライマックスに向けて、かな恵の力も少しずつ強くなって……
強くなって……
強くなって……
(いたあああああああああい)
力強くなったかな恵の手は、おれの手の甲に爪を食い込ませてきた。これは地味に痛い。しかし、大声で叫ぶこともできない。だって、映画の上映中。
おれは、がんばって痛みに耐えた。そこだけはみんなに褒めて欲しい。
※
「おもしろかったですねー。ねっ、兄さん?」
「う、うん」
ひりひりした痛みが目に沁みるのだ。
「って、どうしたんですか。号泣してるじゃないですか。そんなに感動したんですか?」
「そ、そう。なんか心にしみちゃって……」
「大袈裟ですね~」
やっぱり、かな恵は、無意識だったようだ。おれは、がんばって大人の対応をする。
おれの手の甲には血がにじんでいた。




