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第百三十話 責任

 おれたちは、葵ちゃんのお母さんが持ってきてくれたお茶と和菓子を食べて一息ついた。

 お茶と和菓子のおかげでなんとか、興奮が収まってきた。頭の中の盤も、少しずつ動きを停止した。


「すごかったですね、先輩。最後の終盤戦」

「ありがとう。無我夢中すぎて、正直ほとんど記憶がないんだけどね」

「そう、なんですか?! わたしも実は…… ほとんどないんですよ」

 やっぱりか…… うっすらした記憶で、葵ちゃんもどこか遠い目をしていたように思えた。たぶん、盤の中の世界に没入していたのだ。そこには、もう他人という存在が、存在しなかった。ここが、葵ちゃんの家だと思えないくらいリラックスしていたのかもしれない。実力以上の実力がだせてしまった。


「クス、ふたりとも、おれたちの存在忘れていたよね。恋人たち、ふたりだけの世界にはいっちゃってさ。妬けるな~」

 お父さんは、そんな風におれたちを揶揄した。そう、その言葉に、ちょっとドキッとしたおれたちだった。あまりにも集中しすぎて、お爺さんとお父さんがいるのを忘れていた。


「だって、先輩が、すごかったから……」

 おっと、なんか危ない発言のように聞こえるぞ。いいのか? 親にそんなことを言って……


「そんなに、きもち、もとい、楽しかったのかい?」

 おい、ナイスミドル。なんかやばい方向に持って行く気まんまんだろう。


「うん、よかった」

 はい、あうとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。

 このふたり、狙ってますよね。そうですよね。ちょっと、待ってくださいよ。なにかは、ちょっと言えませんけどね。


「じゃあ、責任、とってもらわないとね」

「うん、責任とってもらう」

 葵ちゃんは、夢うつつの様子で、お父さんの発言を繰り返す。


「だから、桂太くん。娘とけ……」

「いいかげんにしてくださいっ」

 おれは、声を荒げた。


「なんだい? ぼくは『娘と、けう以上に仲良くしてね』というつもりだったんだけどな」

「どうして、歴史的仮名遣い?!」

 けう=今日だと習った古文の時間をおもいだす。


「学者の職業病みたいなものさ~」

「たしか、経済学を専攻していたはずですよね? 古語関係ないじゃん」

「まあ、遠からず、近からず、みたいな」

「いや、全然、遠いでしょ」


「まあ、冗談は、ともかく」

 お父さんはきゅうにまじめな顔になる。

「桂太くん、これからも娘のことをよろしく頼むよ。葵は、将棋をおぼえてから、毎日が楽しそうでね。笑顔が増えて、家族の共通の話題も増えた」

「……」

「きみには、本当に感謝しているよ。本当にありがとう」



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