第百二十六話 お義父さん
おれは続いて、葵ちゃんのお父さんとも対局をおこなった。こちらもスマートな見た目とはうって変わって泥臭く粘り強い将棋だ。香落の相振り飛車。おれの香車がないため穴熊の弱点、端攻めの心配なく、相手陣に悠々と穴熊が作っていく。おれは、金無双で対抗した。堅さでは負けているので、おれは積極的に攻撃策に打って出る。
本来なら守りに回るはずの、上手が攻めていく。さっきのお爺さんとの将棋でわかった。おれも勝利に貪欲にならなくてはいけないのだ。さっきのおじいさんの将棋を見て確信した。そうしなければ、おれはもっと強くなれない。
おれの怒涛の攻撃がお父さんの穴熊を押しつぶす。粘ろうにも、もう粘れないのが穴熊のデメリットだ。駒が密集しているため、逃げる余地がなくなっているのだ。味方に邪魔されて立ち往生しているうちに王は捕縛された。
お父さんは投了した。
「いやー、やはり強いですね。もともと居飛車党なのに、相振り飛車もお得意とはおそれいりました」
「部内で、この戦法のスペシャリストがいるので、そのひとの将棋を見ておぼえました。相振りは縦からの将棋になるので、自分でも指しやすいです」
「こんなに強ければ、わたしも安心して葵を嫁がせることができます。いやーいい婿をもちました」
「えっ」
「えっ」
「よし、桂太先生。今日はご飯を食べていってください。母さん、赤飯とタイを用意してくれ」
「ええええええええええええええ」
「ちょっと、お父さんっ」
おれたちはあわてて突っ込む。たぶん、冗談のはず。たぶん、冗談のはず。たぶん、冗談のはず。大事なことなので、3回言いました。
「さてと、冗談はおいておいて。桂太くん、連続で悪いんだけど、娘とも指してもらえないかな? 葵がどこまで強くなったのか、見てみたいんだ」
やっぱり、冗談か。よかった。
そして、一番厄介なことを頼まれた。葵ちゃんとの勝負。これは全力でいかなくてはいけない。そうしなければ、簡単に食われてしまう。
もう、彼女はそこまでの領域に足を踏み入れているのだから……
「じゃあ、葵ちゃんやってみようか?」
「は、はい」
葵ちゃんも緊張している。そりゃあ、そうだろう。でも、確実におれのほうが緊張していた。だって、もう彼女の実力は、おれたちに匹敵していたのだから。
「あ、あの、桂太先輩? 手合いはどうしますか」
「うん、もちろん平手で」
おれたちは、はじめて真っ向からぶつかり合う。おれは挑戦者の気持ちで対局の準備をおこなった。




