第百二十二話 あいさつ
「おかえりなさいませ、お嬢様」
葵ちゃんの家は、まるでメイド喫茶のようにおれを出迎えてくれる。そう、これがメイドさんたちだったら萌え萌えだったのにな。こんなゴツイ黒服のサングラスメンたちだと、風情もへったくれもない。完全にマークされてるよ、おれ。
「あ、あの、葵ちゃん? ご両親のご職業を聞かせてもらってもいいですか?」
「えー、どうしたんですか? 両親は、大学で経済を教えてますよ」
いや、これ学者さんのお家の物々しさじゃないでしょ。なんか反社会的勢力みたいなノリを感じてしまうんだけどさ。
「ちなみに、お爺さんは?」
「えーっと、会社の社長をやってますよ。黒田たちは、みんな社員さんです」
「あっ」
なるほど、わかった。深くは聞かないようにしよう。ああ、これ以上は絶対に深く聞いてはいけない。さもなくば、パンドラの箱が開いて、おれがどうなるかわからんぞー。
「じゃあ、お父さんたち待ってるので、こちらにどうぞ。桂太先輩」
おれは和室に通された。
そこには、白髭が立派なお爺さんと、ナイスミドルなお父さんがあぐらを組んで談笑していた。やばいやばいやばいやばい。雰囲気がやばい。完全にアウトロー感が満載なんですが…… これ、組長と若頭って紹介されても、おれは納得してしまう危険性がある。
「おお、来たか。葵。そして、きみが桂太くんだね」
ナイスミドルなお父さんが笑いかけてくれる。ちょっとばっかり、殺気があるようなないような。
「は、はい、佐藤桂太です。葵さんとは、部活で仲良くさせてもらっています。あ、あと、先日は、ランチ代を御馳走いただきありがとうございました」
「おやおや、そんな固くならなくていいのだよ。ちょっとばっかり強面の人間が多いけど、いまはちゃんとした真っ当な人生を送っているひとたちだからさ…… ねえ、父さん?」
「そうじゃ、そうじゃ。すまんのー 驚かせてしまったかな。わしも、いまは、ちゃんとした会社経営者だからな。そんなに怖がらなくていいのじゃよ」
なんか危ないワードを強調されているような気がしなくもないんですが……
いや、深くは聞かないようにしよう。
「それで、桂太くん。孫娘がお世話になっているようだね。ありがとう。仲良くしてもらって」
「いえ、こちらこそ。葵さんには、本当によくしてもらっているので」
「で、じゃ。実は頼みごとがあって、今日は来てもらったんじゃ」
「なんですか?」
「葵と結婚してもらえないかな?」




