第百二十話 誤解
おれは両親の問い詰めになんかしのぎきった。まさに、詰めろ逃れの詰めろ状態。将棋なら名局賞間違いなしの逃げ方だった。最終的には、父さんの……
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「まあまあ、尚子さん。ふたりとも年頃だし、きゅうに年の近い兄妹になって戸惑ってるだけだよ。それにさ、最悪、ふたりは義理の兄妹だしさ…… 法律的にはセーフかなって?」
いいのっ!? おれは爆弾発言に驚きおののく。父さんそれは完全に悪手だよ。そんなこと言ったら尚子さんキレるに決まって……
「まあ、たしかにそれも、そうよね。わたしもかな恵の旦那さんが桂太くんなら安心できるし……」
いいのかっ。ふたりとも、それでほんとうにいいの?! いや、おれが言うのもあれなんだけどさ……
ふたりとも少しずれてない。天然なの? 天然なの? ほんとうに大丈夫?
「でも、ふたりとも、節度は守って交際するんだよ。まだ、高校生なんだからな」
父さんは達観した感じだった。なんだよ、その仙人みたいな顔は……
「そうよ、ふたりとも、ちゃんと……」
尚子さんまで、なんか爆弾発言しそうな気がする。これは全力で止めないといけない。下手したら家族崩壊待ったなしなんだから。
「誤解ですうううううううううう」
「誤解だよおおおおおおおおおお」
勝手に話を続ける両親におれたちは全力で突っ込みをいれるのだった。
これ以上、ほっておくと勝手に婚約とか言い出しかねない。
おれたちの両親はやっぱり、おれたちの両親だった。
※
こんな感じで話は終わってしまった。「ほんとうにいいのかよ?」思春期の高校生にあんな態度で接して…… 下手したらグレる案件だぞ。
おれたちは、なんだかんだありつつも無事に解放されて部屋に向かう。なんだか、どっと疲れてしまった。
「かな恵、ごめん。ちょっと悪ふざけがすぎたかも……」
「大丈夫です。わたしも少し過敏になりすぎました」
おれたちは大人の対応をする。
「やっぱり、かな恵は、迷惑だよね。おれみたいな将棋オタクがきゅうに兄になって……」
「そんなことないです」
かな恵はいつも見せない大声を発した。
「兄さんは素敵な人です。優しいし、すごい気遣いできるし、将棋だって強いし」
「でもさ……」
「わたしは、そんな兄さんのこと、桂太さんの、その、あの」
急に声が小さくなる。
「だ、す、で、す」
「えっ」
「ごめんなさい、忘れてください」
そう言ってかな恵は部屋に逃げ込んでいった。
そんなおれたちを……
「尚子さん、青春だね」
「ああ、初々しいわ~」
両親は生温かい目で見ていた。




