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第百九話 報酬

 苦悩の末にすべてが報われる時がある。有名なマンガでそう言っていたのを思い出した。将棋ですべてが報われる時とは、たぶんこういう時だ。


「やったああああああああああああああああああああああ」

 おれが、みんなの席に戻った時、みんなはそう言って祝福してくれた。


「よかったな。桂太。大金星じゃないか」

 文人がおれの首をつかんで頭をごりごりする。


「桂太先輩、最後の寄せかたすごかったです」

 葵ちゃんがそう言って抱き着いてきた。ああ、至福。


「すごかったです。兄さん」

 かな恵がそう言って手をつかんできた。俺の株がストップ高だ。


「桂太くん。すごい将棋だったわ」

 今回の最大の功労者である部長も珍しく素直に誉めてくれる。


「みんなのおかげです」

 おれは、疲れはてながら絞り出すようにそう言った。


 みんなの様子を見て、本当に勝ったんだなという実感が生まれた。

 勝ててよかった。今は安心感しかない。


 じゃあ、みんな向こうの部活の人と挨拶して、お昼休憩。その後、各自好きなように個人戦よ。


「はーい」



 おれたちは、近くのファミレスで昼食を取った後、練習試合に戻った。


 

 おれは、西内さんとの練習将棋をおこなう。

「あなたが、米山さんによって来る変な虫ね。成敗」

 とか怖いことを言われたが、なんとか勝つことができた。


 部長は団体戦で戦えなかった奏多さんと四間飛車vs左玉の相振り対決を演じていた。

 互角の将棋は、大熱戦となり、最後には千日手が成立した。本来ならば、指しなおしだが、今回は引き分けということになったらしい。


 驚いたことは、葵ちゃんだ。彼女は有段者たちに次々と勝負を挑まれて、得意の中飛車でバシバシと終盤に切り抜いていった。


 ピンチになっても得意の終盤力で大逆転の魅せる将棋だ。

 敗れた有段者は、超正確な葵ちゃんの将棋を見て、「まるでコンピュータ」だと震えていた。

 たしかに葵ちゃんの将棋は、コンピュータのようにすごい。終盤に不利であれば、こちらが負けてしまうので逆転もできない。勝つためには序盤でポイントを稼ぐしかないが、ポイントを稼いでも、一手のミスが命取りとなりうる最強の初心者。


 考えただけでもおそろしい。そして、彼女はまだ成長途中だということが一番の恐怖だ。

 文人もかな恵も勝ち越す結果を残していた。全国名門校とのこの結果は、おれたちのいい自信となった。

 こうして、おれたちは、充実した合宿2日目を過ごした。


 ※


「今日は、ありがとうございました」

 わたしは奏多さんにそう言ってあいさつした。

「ええ、こちらこそありがとう、米山さん」

 わたしたちは握手する。


「しかし、みごとに当て馬にされたわ。まさか、あんな隠し玉を持っていたなんてね」

「葵ちゃんのこと?」

「ええ、あの子も本当にすごい才能の持ち主よ。でも、もっと、上がいる。わかってるんでしょう?」

「ええ、もちろん」

「わたしを生贄にするなんて、ちょっとだけむかつきましけどね」

 いつもの上品な口調が崩れていた。それほどまで、彼との敗戦がショックだったということか。


「彼は最高よ。だって、わたしの秘密兵器だから」

「魔法使いの弟子ということね」

 わたしたちは笑いあう。

 

 最後の夏の大会まであと1か月。


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用語解説

左玉……

お互いに振り飛車戦法を採用した際に用いられる右玉の親戚戦法。

ひたすらカウンターを狙っていく。

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