表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

104/531

第百四話 右玉②

 おれは、矢倉の完成前に角を交換した。本来ならば、矢倉が完成してからおこなうべき手順だが、今回は攻める気持ちが強く出た形だ。


 奏多さんもノータイムで角を交換した。ここまではすべて想定内という表情だ。

 おれは次の手で矢倉を完成させた。


 矢倉と右玉がお互いににらみ合っている。こちらから仕掛けるのが、セオリーだが…… なにか嫌な予感がした。この先に罠が待ち構えているような危険な予感が。どうする。おれは悩みながら攻撃の準備をおこなう。

 しかし、奏多さんの構想はおれを上回るものだった。


 やはり、彼女は専門家だ。


 一番下の段にいた飛車が急展開して、おれの飛車とにらみあったのだ。


挿絵(By みてみん)


 これは……


 攻める右玉。本来ならば、カウンター戦法のはずの右玉側から攻めてくる積極策。バランスを重視することで、守備を薄くしている右玉側からみるとハイリスクハイリターンな戦い方だ。おれの当初の計画ももろくも崩壊していく。


「びっくりした顔しているね」

 奏多さんは意地悪な笑顔になっていた。


「そりゃあそうですよ。考えていた対策がすべて崩れましたから」

「そうでしょう、そうでしょう」

「くっ」

「ここからは力勝負よ。お互いに楽しみましょう」

 そう言って、奏多さんは飛車先の歩を伸ばしてくる。主導権は向こうに握られてしまった。

 おれは対処療法的に駒をうごかさざるを得なかった。


 ※


「弱ったわね」

「そうですね」

 珍しく部長とかな恵ちゃんの意見が一致した。


「なにが困ったんですか?」

 わたしはよくわからないので、聞き返す。


「右玉はカウンター戦法なんだけど、ごくたまに自分から動いてくることがあるんだよ」

 文人先輩が教えてくれる。

「今がその状況ですよね」

「うん、桂太は攻めるために陣形を組んでいたんだけど、それがあだとなってしまったんだ。

「どういうことですか!?」

「桂太の陣形はかなりもろいってこと」

------------------------------------------------------------------------


人物紹介


奏多エリ……

高校三年生。アマチュア三段。右玉使い、別名「右玉の女王」

カウンター主体の将棋を得意とし、全国大会の常連までのぼりつめた。

バランス感覚に優れた棋風で、強烈なカウンターを持ち味とする。

前回の大会では、米山部長と個人戦ベスト8をかけて激突。

四間飛車vs糸谷流右玉で死闘を繰り広げて惜敗している。


用語解説

右玉……

居飛車戦法に分類されるが、かなり特殊。

王と飛車を接近させて、バランスよい陣形を作る。

カウンターを主体とする戦い方。

相居飛車、対振り飛車(別名「糸谷流右玉」)どちらにも対応が可能。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ