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第百二話 桂太vs女王

「勝って来たわよ、みんな」

 部長は、さっそうとおれたちの控えているイスに戻ってきた。いつものように自信満々な笑顔だった。


「さすがです、部長」

「感動しました~」

「まさに名人芸」

 おれたち、三人はは口それぞれの称賛の声をあげた。


 ひとりだけ、かな恵は……


「すご、い、と思います。将棋だけは……」

 素直じゃないな、本当に。


「みんな、ありがとう。じゃあ、ラストは任せたわよ、桂太くん」

 部長はそう言って笑う。その笑顔は、ふたりだけの研究会でしかみせてくれない屈託のない笑顔だった。


「は、い。がんばります」

 いよいよ、おれの番だ。葵ちゃんと部長の活躍でスコアは2-2のイーブン。すべてはここにかかっている。最高に緊張する。そして、相手は全国大会個人戦ベスト16の超強豪「奏多エリ」。


 部長に匹敵する実力を持つ「右玉の女王」。同じアマチュア三段とはいえ、実績が段違いだ。軽快なスピードを要する奏多将棋に、おれのぶ厚い将棋がどこまで戦えるのか。


 非常に心配だ。


「とても、心配、だって顔しているね。桂太くん」

「部長」

「大丈夫だよ。あなたなら勝てる。わたしが、単なるサプライズ目的で、あなたを大将にしたわけじゃないのよ」

「でも……」

「わたしの見立てであれば、あなたはもう、わたしとほとんど()()くらいの実力はある。あとは自信をつけるだけ。いつものようにやってきなさい」

 過大評価だ。そう思ったけど、口にはだせなかった。部長は本当に重要な時に、かっこよくなる。それがずるい。


「行ってきます」

 おれは、そう言って力強く席を後にした。去年の新人戦の準々決勝・市内トーナメントの決勝と大事な所で負けてばかりのおれだけど、ここでは負けられない。だって、頼れる先輩とかわいい後輩が作ってくれた最高のひのき舞台なのだから。


 ※


 もうそこには、彼女が待っていた。すさまじい殺気をまとわせながら。

 さきほどの大和撫子とは、もう別人の雰囲気だ。それもそのはずだ。ここで勝った方が団体戦の勝利。負けたいと思っている将棋指しなんているわけがない。プロじゃなくたって、おれたちは”勝負師”なのだから。


「キミが、米山さんがご執心の男の子ね」

「ご執心かどうかはわかりません」

「クスっ、おもしろい子。米山さんはホントにおもしろい才能を見つけてくるわ。さっきの初心者の女の子もそう」

「葵ちゃんは、天才です。おれと一緒にしちゃいけませんよ」

「そう? 米山さんの中では、あなたちは同列で語られているわよ」

「まったく、部長は…… そんなにハードルあげないで欲しいです」


「じゃあ、始めましょうか?」

「はい」


「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 対局が始まった。

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