第百話 変態vs変態②
ついに、百話到達です!
いつも本当にありがとうございます。
見ている? 桂太くん。
わたしを上回る変態がここにいるのよ……
わたしは名作バスケマンガの名言を改編して、脳内でぼやく。自分が、少しやばいやつだという実感はあった。でも、西内さんは、もっとやばいです。
すでに、局面は中盤まで来ていた。
彼女の攻撃を、わたしはひたすらに対処し、相手を封じ込めていく。
「ああ、楽しい。米山さんとの神経戦」
西内さんは、楽しそうにそう言って指していく。守りを固めて、しっかりとした攻撃。飛車を角でいじめて、陣形を崩していく。言っていることは、変態じみているのに、指す将棋は正統派だった。そういえば、プロでも、言動や奇行が多い人に限って、将棋が正統派なことが多い。
公式ホームページで変顔ダブルピースをしていたことで有名な会長だったり、タイトル戦に勝って弟子と裸踊りしたひとだったり、ひたすら下半身を露出しようとしたり…… 全部、同じ人なんだけどね。
彼女は、わたしの陣形が少しだけ崩れたことを確認すると、ギアを一気に攻撃へと変換した。歩でわたしの銀冠をけん制した後に、飛車とわたしの角を交換した。
「ついに、きたのね」
これが通称、穴熊の暴力と呼ばれる戦い方だ。
本来ならば、不利である攻撃を、守備の固さを理由に強引に通す。価値的には、最も高い飛車を切って、角や金をとるようなことも平気でおこなわれるのだ。相手に強い駒を渡しても、穴熊を組んでいるため、怖くない。相手に時間を使わせて、無理攻めすら通してしまう。穴熊の最大の魅力は、守備力を生かした攻めにある。
わたしは、慎重に思考を整える。その間に、彼女は二度目の攻撃をしかけてきた。
さきほど、飛車と交換した角をすぐに捨てて、金と交換したのだ。
これまた、大駒と価値の低い駒との交換だった。
「くっ」
わたしは、すぐに角を駒台においたものの、かなりの痛手を負った。守備のかなめに存在した金を失ってしまったのだから。
「ああ、もう少しで、米山さんの王に手が届く」
前方では、ハアハアと危ない息遣いが聞こえてきた。お巡りさん、こっちです。
「届いて、この気持ちっ」
彼女は、たたみかけるように金を使って王手をかけた。
※
彼女の猛攻で、わたしの守備は吹き飛んでいた。さきほどまであった銀冠は消えてなくなり、残骸のようなものだけが残った。わたしは、桂馬を跳躍させる。これが、わたしの最後の狙いだった。
相手は警戒して陣形を整えた。わたしは一歩だけ王を安全な場所に動かす。これを防がれては、全てが終わってしまう。
でも、負けられないのだ。
だって、わたしは、部長なのだから……




