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学校でいじめを受けるようになった。
クラスの4分の1が僕への嫌がらせを行い、それ以外は静観・野次馬である。
いつ行われるようになったのか? それはあの時、大場さんと話を交わしてからのような気がする。あれから数日たって、大場さんたちが今まで僕を遠巻きにしていたのが、次第に僕に関わるようになってきており、それは、僕を揶揄することが目的のようだった。
僕の友達まで僕を避けるようになってきた。別に、僕が世界について吹聴するようになってからずっとそうだったと思うけど。
たとえみんなが支配者に操られていようとも、こういうことは辛い。反撃することができないから、ずっといたぶられていなくてはならない。
あの日、僕と会話をした大場さんは、僕の扱いについてひらめきを得たのだろう。状況よし、素材よし、話題性よし。僕は絶好の鴨。みんなにおいしく頂かれるのだ。
登校してクラスに入ると、僕の書いた作文が黒板に張り付けられてある。僕の作文がさらし者のように、衆目を引き付けるように配置されている。紙の横には、大場さんたちのコメントが黒板にチョークで雑に添えられている。コメントは平たく言えば僕を嘲笑するものだ。
僕はそれには特に注意を向けず、そのまま僕の机に向かう。僕をうかがうクラスメイトは無視だ。
机と椅子には何もされていないようだった。そのまま座る。時折発生するクスクス笑いも無視だ。
これは恥ずかしいことなのだろう。だが、僕にはそう思えない。真実を知るものからすると、彼らの無知蒙昧ぶりには冷や汗の出る思いだ。
しかし、これがいじめである。事実がどうあろうと、一般的にどうとらえられようと、集団で個人を負けに貶める。それが、いじめなのだ。
今回、僕に非はない。少なくとも僕はそう思っている。しかし、彼らはそう思わない。それだけで、力関係が定まってしまうのだ。
考えてみれば、僕以外は全員同一人物によって操られているのだから、どうあがこうと、僕が他人を望む限り勝敗は決しているのではないか……。
いや、望んでいない。全然望んでいない。
なんか……頭が痛くなってきた……。違和感がすごい……。
「石田く~ん」
僕が目を閉じて頭痛をこらえていると、ひどく耳障りな声が聞こえてくる。
「あれ、石田君? え? 泣いてない? 泣いてるよね、これ」
「うそ~泣いちゃった? かわいそう! 誰があんなことしたの~」
「恥ずかしいのをばらまかれちゃったねえ。あ、自分からばらまいたんだっけ?」
「よちよち、泣いてもいいんだよ? ほ~らバブバブ」
「石田君はこういうの好きじゃんね~」
「女子にいじめられるの好きだもんね~」
……既視感があった。僕は目を開けて女子たちを眺めた。大場さんが笑いながら僕に向かって友達と話している。
僕はそういう性癖を持っているので、正直こういうことをされると非常にくるものがある。胸がどきどきして頬が赤くなってくるのを頑張って抑える。
おかしいなあ……なんかおかしいんだよなあ……。
「ちょっと! やめなよ!」
「うわ~委員長だ!」
僕は思わず吹き出しそうになって、委員長を見た。
委員長の容姿は清潔な美形といったところだ。曲がったことは大嫌い的な眼鏡美人。
僕はいじめられるのもいじめからみじめに助け出されるのも好きだ。だから、僕は委員長に思わずときめきそうになった。
……おかしいよなあ。
委員長と大場さんたちが激しく言い争いをしている。委員長が黒板から引っぺがした僕の作文を持って、大場さんの所業を糾弾している。それに対して大場さんグループは、嘲笑を交えながら、数の暴力を以って応対する。それに匹敵する委員省の勢いはすごく、彼女らの戦いは紛糾していた。
僕は異常なほどに胸が高鳴っていた。心がわくわくしてしまう。まるで寝ている間に肛門開発をされていたかのような体の意図しない反応である。
僕は机に突っ伏して、頭をくりくりと拳でこすりながら、醜い言い争いをBGMに眠りについた……。
精神的にとても疲れたので、僕はふらふらと北原先輩を探しに学校中をうろついた。しかし北原先輩は目につくところにおらず、普段いるところにもいなかった。
僕は烏丸に会えるかもしれないと町中をふらふらとうろついた。しかし、会えなかった。
徒労だった。空はもう暗い。ただただ漠然とした不安感に包まれる。