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高校入学して、最初の年の冬。つまり、今から一ヶ月前、僕はとある使命感に燃えていた。
それが何かと言うと、真実の暴露である。
僕は前までは、自分が超能力者であることを隠していて(今でも自分がそうであることは隠してあるけど)、普通の男子学生の顔をして皆と一緒に人並みの学生生活を送っていたのだ。
それがある日、僕は世界の荒唐無稽な真実を知ってしまった。世界の人間が、一人の人間に洗脳されている。信じがたいことだけど、これは確かなことなのだった。
僕は、僕のバリアーのおかげで洗脳されていないらしかった。他の皆は、無抵抗に洗脳されていて、多分僕以外に洗脳から逃れられている人間はいない。僕が見る人間は一人残らず、傀儡なのである。
僕は、一人の自由意思を持った人間として、こうした事態を看過できなかった。人間が持つ真実の感情をまるでおもちゃのように弄ってしまうだなんて、そんな事が許されるだろうか? お祖父さんだって、生きていたら激怒するに違いない。まあ、お祖父さんも自由意思を持てていなかったわけだけど、それは今は置いておこう。
僕は、真実を皆に知らしめる義務がある。だから、手始めとして、学校で演説をして、作文を書いて流布したのである。すると、どうしたことだろう。僕は皆に馬鹿にされてしまった。
当たり前だ。皆は洗脳されているのだから、真っ向から説得しようとしても、無駄なのだ。
だから、今はもう、皆を説得することは諦めている。僕は失敗して、厭世感漂う感じで、皆をただ見下ろすことしかできないのだ。
あるいは、僕はこの世界の支配者を打ち倒す必要があるのかもしれない。世界を救うための、根本原因との対決。そう、世界の救世主となるのだ。
僕は、今、揺れている。この世界を救う必要があるのか、それとも、このままにしておくべきなのか。
そんな議論を、僕は、僕の書いた作文に真っ向から反論してきた、奇妙な先輩と、半月ほど続けている。