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 「そんな狂った世の中で真実の意思とは何だと言えるのでしょう? 人の心はいとも簡単に移り変わってしまうものだったのです。ギャルゲのヒロインのようにころころ好感度を変えてしまうのです。しかし、一つだけ言えるのは、だからこそ、不変の愛は真実であるということなんです」

 「……とまあ、透君は最近こんな風に訳のわからないことを言ってばかりで……それ以外の、授業態度とかは、まあ真面目にやってくれるのですが」

 「まあ……」

 「何かお子さんに影響を与えるものに心当たりはありませんか?」

 「ないと思いますけど……変な宗教とかも、うちではやってませんからねえ。おほほ」

 「いやまあ、最近はネットもありますからね。家でスマホばかり弄ってるとか」

 「どうですかねえ……少なくとも私たちの前では、そんなことは……」

 三者面談である。僕と母親が並んで座り、目の前には僕の生活態度を面と向かって糾弾する担任教師がいる。

 「……まあ、本当に、授業態度は真面目で、成績もいいんですけどねえ。他人との協調も、まあ、若干浮き始めていますが」

 「そうなんですねえ」

 「ただ、やっぱり、先ほどのような、ちょっと危ない言動が目立つようでして……変な作文も勝手に書いてきますし……まあ、高校生にもなってというのもアレですが、そういう年頃と言えばその通りかもしれませんが、私はこれをかなりの問題だと考えておりまして」

 「そうですねえ、ですが……」

 「ですが?」

 「それも個性ですからねえ。私からはなんとも……」

 「……」

 担任教師よ。無駄である。僕の両親は、昔に僕の洗脳によって頭がおかしくなってしまったのだから。そんな、宇宙人を見るような目は止めてあげて欲しい。

 「……透君」

 教師が僕に視線を変えた。僕の母親とは話が通じないと思ったのだろう。

 「ハッキリ言って、私は今の君の言動は危ないものだと思う。何かに影響されてのものだと思うけど、そんな事を言い続けていたら、いつか君は孤立して、やっていけなくなる」

 「孤立? ふふっ、先生はおかしなことを言うんですね。逆説的でもある」

 「……だから」

 「心配しなくとも、協調は生物としての義務です。遺伝子に組み込まれた機能です。であるなら、僕の今の行動もその一環と言うことなのです。逸脱は、大局的に逸脱という機能であります。であるなら、今の歪な状況も変わらず社会的な生命活動を止めていないのでしょう」

 「もういいです」


 さて、春休みである。

校舎の中では、外の運動部の掛け声が目立つ。春休みに学校へ来るのは、運動部系か、担任に個人面談に呼ばれた僕くらいのものだろう。

 「お母さんもう帰るけど、透はどうする? 一緒に帰る?」 

 母にそう問われて、僕ももう帰ろうと思っていたけど、母と一緒に帰るのは嫌だったので、僕はそっけなく断った。

 「何の用があるの? 部活なんて入っていなかったでしょう? すぐ終わるならそれまで待つけど?」 

 なんだろうこの人は、帰りたくないのだと言ってるのだ。 

 「そう? なら、先帰ってるけど……結局、何の用事があるの? ねえ?」

 僕は母との会話もそこそこに打ち切って、一人でぶらぶらと校舎を歩き回った。

 用事などない。休日の学校に部活以外で用のある学生なんていやしない。

 ないので、どうしようかなと迷って校舎をうろうろしていたけど、そう言えば僕の机に読みかけの小説があったことを思い出したので、教室で時間を潰すことにした。

 

 「あれ? 石田君?」

 目の前に、楽譜を見てトランペット(なのだろうか? よくわからない……)を吹かそうとしている同級生がいた。

 確か、大場さんと言ったか。こんなところで何をしているのだろう?

 「見ての通り、私は部活で。いつもここ使ってるんだ」

 そうなんだ。僕は自分の机に向かう。

 「石田君はどうして? 部活とか入って無かったよね?」

 三者面談。

 「え? なんで……ああ、最近の素行についてとか?」

 大場さんは持っていたトランペットを机に置いて、ニヤニヤしながら僕に喋ってくる。

 僕は肩をすくめて、目的の小説を取って、さっさと教室をでようとする。

 「石田君さあ、急にどうしちゃったの? 何か変な宗教でもハマってる?」

 大場さんは僕と会話をする気らしかった。

 「一ヶ月くらい前からだっけ? 急に変なこと言い出すようになったの。石田君どうしたんだろうって、皆不思議に思ってるよ?」

 僕は溜息をついた。さっきから不快な笑みを浮かべる大場さんに、僕は君と会話をする気なんてないってことをどうやって意思表示するか悩む。

 大場さんは、クスクスと思い出し笑いをしだした。

 「この前、なんだっけ。世界は超能力者に支配されてるーとか、君たちに自由意思は存在しないんだーって、皆の前で言ってたよねえ。ふふふ」

 僕の口調と声色を大袈裟に真似して、まだ笑っていやがる。

 僕は、大場さんとコミュニケーションを取ることを放棄することに決めた。

 「残念ながら、君と話してても僕に得られるものは何もないんだ。精々死ぬまで喜劇を演じるがいいよ」

 「ちょっ、く、くふふ、ふふふ。い、今なんて、何て言った? ねえ、もう一回言って? 動画にとって、皆に聞かせてあげるからさ」

 「いっそ哀れだよ。自己を確立できていないのを無自覚でいておきながら、さらに他人の同調を得ないと安心ができないんだからさ」

 「あっはははは! はー、ねえ、何それ。どこのアニメのセリフ? 遅くなった中二病? 数ヶ月前の石田君に聞かせてあげたいわー」

 大場さんは、涙を浮かべるほどに笑いころげて、部活のことなんて忘れてしまったようだ。

 「じゃあね」

 「あ、待ってよ。私石田君のこともっと知りたいなー。オススメのアニメ?とか教えてよ。ていうか、ぶっちゃけ何がきっかけでそうなったの? 私にだけ教えてくんない? ねえ」

 僕はそれらの好奇の言葉をまるっと無視して教室を出て行った。


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