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中学生の間、僕はいろいろな事を体験した。青春したり、充実した部分もあったけど、嫌なこともいろいろあった。年相応に、色に興味はあるけど、積極的に関わろうとは思わない今時の男子学生だった。
とにかく僕は大人しく生きようと思った。友達と遊んで、学校の勉強を頑張って、スポーツを満喫して、超能力とは無縁に、普通に生きようと思った。
大きくなってからは、僕は超能力で目立つことにいつも警戒心を持つようになった。危険だからという理由だけではない。
つまりは陰謀論である。僕が超能力を持っているということは、他の誰かが超能力を持っている可能性が高いということだ。例えば、新種の生物を一匹見つけたとして、それの仲間がいると考えるのは自然ではないのか?
だって、僕が生まれるずっと前から、つまり人類の起源から今の今まで、その膨大な人間の数の中でたった一人僕だけに超能力が備わるというのは、ちょっと考えにくいと思った。具体的にどれほどあり得ないかはわからないけど、多分天文学的な数字じゃないだろうか。
それなのに僕は、超能力の話を空想以外で全く聞いたことが無い。あるはずの物が無い。これはもう、作為的に超能力が隠されているのではと思う。超能力の認知が、空想の域にとどまっているのは作為的ななにかなのだ。超能力者がたくさんいるのなら、世界はもっとあり得ないことでありふれているはずだ。
超能力の存在を隠蔽する作為的な何か。そう、陰謀だ。まあ、漫画っぽいけど、でも、超能力者を管理する巨大な組織がこの世にあっても不思議ではないと思う。だから、用心するにこしたことはない。
などと、そんな事を考えていたある日だった。
僕の家の前に、夜中だけ、人が立ち止まってじっとしているのを、ベッドで眠りこけながら、第六感でみっしりと感じた。
なんだろうなー怪しいなーと思いながらも、僕はそのまま朝起きて、学校に出かけた。
体育の授業でグラウンドを走っているとき、僕の家に人が忍び込んでいるのを第六感で感じた。
やばいなあどうしようかなあと怖くなっていると、忍び込んだ人が帰って行った。特に何かしたわけではないらしかった。僕はよくわからないまま、どうしようもなく過ごすしかなかった。
それから数日して、僕が学校から帰る時に、ついにそいつらは現れた。僕はもうそいつらのことをわかっていた。組織である。
そいつらは、僕を洗脳して組織に引きずり込もうと、突然、僕を待ち伏せていたのだ。僕の帰り道を知っていて、人気の無いところで、僕を狙ってきたのだ。
僕は第六感でそれを事前に感知したので、待ち伏せを迂回して家に帰ろうとした。しかし、家に複数の人間が待ち構えているのを感じた。
ヤバいと思った僕は、あてもなく、遠くへ走った。僕の身体能力は通常のそれではない。超能力のおかげで、やろうと思えば忍者のように数百メートルも跳躍することができる。
逃げるとき、勢い余って跳躍した。突如、滞空しているとき、何かが僕をめがけて飛来した。
しかし僕の周りにはバリアーが自動的に張られているので、それはあっけなく霧散した。
後で知るところによると、得体のしれない奴らが謎の情報網で僕の力を知って、僕を従順な手駒にせんと、人気のないところで僕を誘拐拘束して、挙句洗脳系の能力を持った人間によって僕の頭を弄ろうと、画策してきたらしかった。
この世界には、ずっと昔から超能力者が多くいたらしい。超能力者たちは、その力で人々を蹴散らしたり、救ったり、また巨大な集団を作って、その頂点に君臨したりしていたそうだ。
いろいろな思想を持つ超能力者たちがいて、彼ら同士は味方か敵かで、彼らの争いは絶えることはなかったらしい。一般人は、それにずっと巻き込まれてきた。世界が安定することはほぼなかった。
パワーバランスが1世代で崩壊してしまうのも、そうした情勢の不安定さの原因だったらしい。個人が持つ超能力は大抵強力で、超能力の発現に決まった法則は無かった。
だから、一般人の中で超能力者が生まれて、彼もしくは彼女が、国単位の近隣一帯を一瞬で全て吹き飛ばしてしまうレベルの能力をもって、そこら一帯を牛耳っていた集団を追いやって、その場でしばらく頂点に君臨したのちに寿命で死に、また新たな勢力が現れるような、大雑把に言えばそういうことを繰り返していたらしい。
どうして、今はこれほどまでに超能力とは無縁な社会でいるのか。それは、歴史上類を見ない洗脳系能力者によって、全世界が洗脳されてしまったからだそうだ。その超能力者は、どこにいる人たちでも同時に洗脳して、心を読み取って、しかも操ることができるらしい。距離とか、場所とか、そういうのはほぼ関係ない。
何十億の世界人類を、リアルタイムで、同時に、一人の人間が操っているのだ。
歴史を改稿して、環境も、いくらかの人も改造して、そして今この世界は存在しているらしい。この世界において、超能力は日陰の存在だと言うことだ。それでも、こうした世界は、その能力者が寿命かなにかで死ぬことで、また終わりを告げるのだという。
とても馬鹿馬鹿しい話だと思う。
荒唐無稽過ぎて、僕には重要でない話ばかりだった。僕にとって大事なのは、いくつかの超能力者の集団によって僕の生活が脅かせられかねないということで、それと、認めたくないけど、その世界を牛耳る超能力者の存在だった。
この二つが、重要だった。