4話 男子寮に女子(幽霊)入寮
「さて、とは言ってもどうすっかな」
「何を悩んでるんですか?」
とりあえず寮まで帰ってきたものの、俺は困っていた。
「ここは男子寮だから、基本的には女子厳禁なんだよ。寮長さんが許してくれるのかな?」
「別にいいんじゃないですか。幽霊ですし、最悪姿消しときますんで」
「そこら辺はどうなってるんだ?」
「えーとですね。槐さんには、もう絶対に姿を消すことはできません。他の人には人によって見せれたり、見せれなかったりもします。触れるのは槐さんだけですが、槐さんに触れてれば、触ったり触られたりできるみたいです。さっき実験してみたんですけど」
「ああ、さっきはそれを実験してたのか?」
この寮に戻ってくるまで、やたら手を握ってきたり、腕を組んできたりしてきたのである。あんまり嫌な気もしないし、どうせ止めてもやるから、為すがままにさせていたが、そういうことだったのか。
「はい、それは2%くらいです。残りは単にいちゃいちゃしたかったので」
「ほぼそれじゃないか!」
「はい、むしろいちゃいちゃしてたら、それに気づいただけですから、ほぼというか100%いちゃいちゃです!」
偶然の産物かよ。まぁいいや。
「お、柊。今帰りか?」
「あ、こんばんは、柳先生」
体育会系の見た目をしている30代後半くらいの男性。この人がこの橘高校の寮長である。
ジャージ姿の似合う男前だが、残念ながら物理の教師である。だが見た目どおり熱血なので、熱血物理教師という新しいジャンルを作っていて、生徒人気も高い。
「おや、その後ろにいるのは、柊の彼女か?」
「はい、楪と申します」
「おー、俺は生徒の顔は覚えているつもりだが、ということは他校の生徒か? いかんぞ、問題になるから」
「えーとですね、その辺を説明すると、話が長くなるんですが……」
「あ、私幽霊です。槐さんの背後霊なんです」
「おいい!」
そんなストレートに言って信じてもらえるわけが。
「ほほぉ、じゃあ君が榛くんのいっていた子か」
ところが柳先生は全く動揺を見せずに納得顔になる。
「え、先生信じるんですか?」
「ああ、私も物理教師のはしくれで、榛くんの幽霊話は結構聞いている。そんな彼が嘘をつく意味もないし、柊くんも誠実で信頼に値する。後は、えーと楪さんだったかな? 何か幽霊っぽいことできる?」
「はい、じゃあ浮いてみますか?」
そういうと、楪は3メートルほど浮遊する。
「あ、これは幽霊だな。幽霊ならまぁいいか。柊くん、あまり騒がしくしないようにね」
「え、いいの? いいんですか?」
あまりの展開に俺が動揺して先生にタメ口を使いかけた。
「だって背後霊だって言うし、えーと楪さんだっけ? 柊くんから離れられないんだろう?」
「ええ、そうです」
「じゃあ仕方ないな。校長には俺がうまく言っとくから、部屋に戻りな」
というわけで、楪の男子寮滞在が認められてしまった。
「はぁ、なんか疲れた」
俺は部屋に戻ると、ベッドに腰掛ける。
時間帯が遅かったので他の男子には見つかることなく部屋には戻れた。
どうせ明日にはばれる可能性が高いのだが、今日はいろいろあったし、1度にたくさんのことは処理ができない。
面倒なことは1日で済ませておきたいが、さすがにキャパシティというものがある。
「へー、ここが男の人の部屋なんですかー、ワリと片付いてますね~」
楪が部屋をキョロキョロ見渡している。
「まぁ俺の部屋って言っても、寮だからな。そこまで散らかせないぞ」
とはいっても、俺の部屋は片付いているほうだとは思う。
2人いられる部屋に1人でいるのもそうだが、俺の母親が潔癖を疑うほどの綺麗好きで、散らかしてると問答無用で捨ててしまうので、多少は整理整頓する習慣はある。
「くんくんくん」
「何してんだ?」
「男の人の部屋は初めてなので……、しかもそれが好きな人……、匂いを堪能せずにはいられません~」
「変態的な行為はやめろ」
「いえいえ、これくらい普通ですよ」
「男が女子の部屋にはいって匂いに興味を持つなら聞いた頃あるけど、女子はそうなのか?}
「はい。むしろ男子よりも女子のほうが興味津々だと思いますよ」
まじかよ。ちなみに俺は女子の部屋に入ったことはないので、あくまでも憶測だが。
「まぁそんなことはいいや、さてと」
「どうします? ご飯の前にします? それともお風呂でします? それとも私ですか?」
ゴン!
俺は楪をグーで殴った。
「いったーい! 女子をグーで殴るなんてサイテーです! DVですか! で、でも愛したのは私ですから……、受け入れます!」
「意味の分からないことを言ってんじゃねぇよ。というか、幽霊が新鮮に痛がるなよ。痛いのか?」
「いえ、別に痛くないですけど、そこらへんはなんとなくです。ほら、別に痛くなくても、叩かれたりすると痛いってつい言っちゃったりするじゃないですか。それと同じです」
「まぁ分からんでもないが……、とにかく俺は寝るぞ」
「いきなり私を選ぶんですか! で、でもそれくらいの準備は……、槐さんの欲求不満を受け入れるのは私の役目……」
「ZZZ……」
「え! 本当に寝るんですか! 起きてくださいよー」
ペチペチ。
「痛い痛い、叩くな叩くな」
狸寝入りを決め込もうとしたら、頬を叩かれた。
「寂しいんですよ~、ぬくもりが欲しいです~。一緒に寝ましょう~」
「幽霊って寝るのか?」
「幽霊は寝ますよ」
「そうなのか。じゃあベッド貸してやるからそこで寝ればいいじゃないか」
「一緒に寝てください!」
「嫌です」
「何もしませんから」
「嫌です」
「じゃあ仕方ないですね。金縛りを使います。金縛りを使う以上は、寝るだけでは済ませないですけど……」
「さっと横で寝ろ」
仕方なくベッドの掛け布団をあけて横に案内する。
キュッ!
「おい、何で抱きつくんだよ」
楪に背を向けて寝ようとしたのだが、胸の辺りに手を回されて、体を密着させてくる。
「えー、だって一緒に寝るんですから、これくらいはセーフですよね」
「何もしないって言ったじゃないか」
「ここからは何もしませんよ」
「……、まったく……」
何を言っても聞かなそうだし、金縛りを使うモードにされても、面倒ではあるので、あきらめた。
「くーくー」
しばらく経つと、楪の寝息が聞こえてきた。
寝れねぇなー。
昨日まで女っ気が全く無かった俺が、いきなり女子(幽霊だが)と一緒に寝てたら、そりゃ緊張が半端ではない。
楪は幽霊の癖に、あまり冷たくもないし、吐息も肉感も妙に生生しくて、普通の女子と変わらない。
ギュー!
「槐さぁん……」
更にぎゅっと抱きしめてきて、しかも俺を偉く甘い声で呼んできた。
いろいろ決壊寸前である。
スタイルのよろしい胸が背中でつぶれてきて、ノックアウトされそうだ。
そんなこんなで、本当に意識が飛ぶまで、もんもんとした夜を過ごす羽目になった。