2話 本物
「さぁて、綺麗な幽霊と仲良くなるぞ!」
「目的微妙に変わってないか?」
そして、その日の夜21時。ほぼ人通りのない夜のデパート前に来ていた。
「さぁて、カメラを準備すっか」
「幽霊ってカメラに綺麗に写るのか?」
「心霊写真があるんだから、大丈夫だろ」
「まぁ別にいいけど」
基本的にこの時間帯というのは、幽霊を探している時間帯以外は、梧との雑談タイムである。
「そーいえば、綺麗な幽霊って言ってたけど、どんな感じなんだ?」
「お、やっぱ柊もそういうのに興味ある感じか? やっとかよ」
「ちげーよ。見た目がわかんないと、俺が見つけても分からないだろ」
「なんだ。やっと柊が女に目覚めたと思ったのに」
「俺に男色の気があるみたいな言い方をすんなよ。それこそお前だって、モテモテなくせに全然そう言う話ないじゃないか」
頭も良くて運動もできて、性格もいいし、顔立ちも十分悪くない。実際に告白されたところもよく見ているし、去年の2月14日に、カバンをパンパンにしていたのも覚えている。
「俺の趣味に付き合ってくれる相手じゃないといけないからな……、そう考えると……お前? いや、冗談だって、それはやめてくれ」
俺が手ごろな石を近くの茂みから見つけて、持ち上げると、梧の冗談が止まる。
「そうか、本気だったら、お前の男の証を取り外して、それをアホ毛みたいに頭につけるところだったぞ」
「江面やべぇ! まぁ、そんなことより、確か俺達と同世代くらいで、髪が長くて、和服を着てて、スタイルもよろしい感じだったと聞くな」
「それで見た目美人か。幽霊世界ではモテモテなんだろうな」
「実際にあれくらい美人なら取り付かれてもいいって意見もネットにある」
「ろくな意見じゃないな」
「俺は一瞬を逃さないようにカメラを構えてるからな。柊も気づいたら、この予備のカメラを使ってくれ」
そして俺はカメラを手渡される。
「これ使い捨てカメラだけどいいのか? 現像するまで分からんぞ」
「携帯のカメラで取ると、携帯が呪われたときに困るからな。使い捨てカメラなら呪われても、カメラを捨てるだけで済むし」
「微妙なラインで用意周到だな」
携帯が呪われるレベルの幽霊なら、そこだけ気をつけても意味が無いと思うが。まぁそこらへんは気持ちの問題だろう。最近着○アリとか見たし、携帯電話と幽霊の関係は割りと怖いものではある。ちなみに俺はほとんど電話がかかってこないので、着信ナシである。人によってはある意味怖い。
「ん?」
梧がかなりカメラをしっかり構えて交差点の中央を見ているので、俺は反対側をふと見た。
するとちょうど歩道の乗り入れのところには、俺達と年が同じくらいで、髪が長くて、和服というか、白色でちょくちょく花柄の浴衣を着て、スタイルもよろしい女性が立っていた。
んー、さっきまで梧が言ってた特徴と合致するな……。ただ、幽霊には見えない……。
だって、一般的に幽霊って、足ないはずじゃん。思い切り足あるじゃん。しかも、幽霊って、めちゃくちゃ白いか、青白いはずなのに、普通の人みたいに、肌色で血の気あるしさ。透けてもないし。
に、しても偉い美人さんだな。こんな時間にこんなところで何してんだろ?
「あ、ちょっと危ないです!」
なんとなくぼーっと見ていたのだが。その少女はなんと歩道にある乗り入れからまっすぐ前に歩いて、車道に出て行ったのである。
そこは全然信号のある場所ではないし、横断歩道もない。いくら車どおりが少ないとはいえ、危険である。
「…………?」
ところが、その少女は左右に首を振ってから、頭をかしげて、更に車道側に出ようとする。
「いやいや、どう考えてもあなたですよ、その和服か浴衣か分からんもの着てる人!」
「え? 私?」
そこまで言ってようやく少女は歩みを止めて、こちらを振り返る。
「いや、他に誰がいるんですか? というか、車道から離れてくださいよ」
「?」
するとまた首をかしげてしまう。いや、どう考えてもおかしいし。
そんなことをしていると、車が来てしまう。なのに少女は逃げるそぶりを見せない。
「ああ、もう。めんどっちいな」
俺は面倒くさいことは嫌いだが、さすがに目の前で女子が轢かれるのを見過ごすのは、いろいろ寝心地が悪い。
3日くらいうなされかねん。
「な、何をしてるんですか!?」
それはこっちの台詞だ! と突っ込みを入れたかったが、そんなことを言っている隙もなかったので、車道に飛び出して、少女の手を握る。
「え……?」
少女は驚きの表情を浮かべていたが、そんなことを気にする場合ではない。
ププーッ!
車のクラクションがなるが、ギリギリで少女をつかんで歩道側に戻ることができた。
「あー、もう、こんなことキャラでも柄でもないのに!」
「あ、あのー」
少女は動揺した様子で俺に話しかけてくる。
「ああ、悪い悪い。抱きしめたままだった」
回避したときに、少女の体を俺の上にして、思い切り背中からダイブしたので、背中が痛くてすぐには気づかなかったが、柔らかさと甘い香りにくらくらしそうになった。
「い、いいえ。でもどうして」
「いや、あんたがあんなところにいるからだろ。どうしてはこっちが聞きたい」
「あそこにいても、私は何もないから」
「何もないわけないだろ。車に轢かれたら、あっという間にザクロだぞ」
「表現が生々しいですよ……。それより……、あなた私が見えるんですか?」
「は? 何を言ってるんですか。まるで幽霊みたいに……」
「柊。さっきからお前なにしてるんだ? 急に道路に飛び出したと思ったら、独り言を言い始めて。異世界転生に失敗して、頭を打った感じか?」
「いや、俺は異世界に行きたいとは思ってねぇよ。現世に満足してるよ。いや、独り言って、ここに女の子がいるだろ?」
「? 俺には見えないが?」
「え……」
空気が凍った。俺には見えてて、梧には見えてない。車を避けようともしない女の子。これだけ証拠がそろうと……。
「あのー。もしかしてあなたは」
「はい。私の名前は楪と言います。多分幽霊やってます」
「あ、ああ、俺は柊槐……、え……」
梧との心霊スポット探索に付き合って長くたったが、本物を見るのは始めてであった。
「どうしたんだいったい。まるで幽霊でも見たような顔をして」
ああ、そのとおりだよ! といいたかったが、さすがに脳の処理が追いつかず、俺が冷静になるまで、梧と自称幽霊の楪は、ただ首をかしげていた。




