13話 女子には勝てません
楪ちゃん髪綺麗だよねー」
「手入れはしてないんですけど、汚れませんからね」
「浴衣いいな~。私も着てみたい」
「着るのは簡単です。教えてあげますよ」
「家事全部できるんだって? 調理部の友人から聞いたよ」
「ええ、お母さんが家事好きで全部教えてもらったんです」
「楪ちゃんは女の子にも人気だな」
「ああ、楪も満足だろうよ」
楪が姿をこのクラスに見せてからけっこう経ち、完全にクラスの一員として受け入れられた。
幽霊と言う点を除いては、明るくて人懐っこい性格をしているので、友人が自然とできるのも納得であり、クラスの女子と仲良く話していることも多くなった。
「楪って本名なの? 珍しいけど」
「うーん、どうなんでしょうかね。幽霊になってときに自分が楪ということだけ分かったので」
「苗字は分からないの?」
「はい。苗字は全くです。でもいずれ柊楪になりますから、苗字のことは気にしません」
楪は俺からあまり離れないので、楪とその周りの女子の会話は基本的に全部聞こえる。
そしてときどき余計なこをを言ってくれる。
そのたびに俺は女子から注目されて、キャーをいう声援を浴び、男子の一部から敵意の目線を受ける。
今がそうである。またこっ恥ずかしいことを……。
「楪ちゃん、制服着てみない? 今日はお姉ちゃんお友達のお古を借りてきたんだー」
そんなこんなで会話は盛り上がり続いて、服装の話題になっていた。
「わー、可愛いですねー」
楪は存在を認められているとは言え、正式に生徒としては認められていないので、服装は浴衣である。
初日を除いては俺の服も着させていない。俺の小さめのタオルを持たせておけば、ものに触ることにも問題は無いからである。
そういえば何も言わなかったから、制服どころか私服の話もしてなかったな。これはちょっと俺がうかつだったか。
制服を見て嬉しそうにしてるしな。ちょっと相談してやるか。
「楪ちゃんはスタイルがいいからね。なかなか合うサイズが見つからなかったけど、これならいけるね」
「さっそく着てみたいです!」
「じゃあすぐ横が女子トイレだから着替えてみよっか」
「いこいこー」
そう言って数人の女子と楪は教室を出て行く。俺のクラスはすぐ横がトイレだから、俺がついていく距離でもない。
ん? 何か忘れてるような。
ダダダダ!
「ん?」
俺の前にさっき外に出て行った女子のうちの1人が走ってきた。
ぐいっ。
「え? え?」
そして無言で引っ張られていく。
「おい! なんだなんだ?」
その女子は何も言わないが、俺も抵抗できず連れて行かれる。
相手体育会系、俺文科系、男女差はそれで埋まってしまうものである。
「えーと、なんでしょうか?」
俺は女子トイレの前で女子に囲まれてしまっている。
ちなみに楪は俺の横にいる。
「柊君、どういうことか説明してくれないかしら?」
「えーとなんのことですかね?」
あまりの剣幕に敬語になってしまう。
「楪ちゃんね……、下何もつけてないじゃない! なんて格好で男子の前に姿を出させてるの!」
「ああ、そういえば忘れてた」
初日に衝撃的なことはあったが、浴衣は基本的に上から下まで隠れるし、上まできっちり閉めてるから、多少運動しても胸が見えそうになることがあにから、忘れていた。
「忘れてた? こんな格好じゃ制服なんて着られないじゃない!」
「み、皆さん、槐さんを攻めないでください……」
楪が俺の弁護に入る。
「楪ちゃん、むりやりさせられてるんじゃないわよね? 惚れた側の弱みといっても、何をされてもいいわけじゃないのよ。幽霊にも人権はあるわ」
幽霊に人権があったのか。始めて知った。
だったら不法侵入罪とかで訴えてやろうか。
「いいえ、私は何をされても槐さんになら……」
「ちょっと待て。まずは自分がなぜ下をつけてないかの説明が先だろ。そこを肯定されると、俺がやらせてると勘違いされるだろ」
「あ、はい。皆さん。この格好は最初からです」
そうそう。
「槐さんは初日からこの格好を知ってますが、私に下をつけろとは1度も言ってきませんでした! だから槐さんはこの格好が好きなんだと思います!」
「そうそう……、ん?」
「柊君! 今日帰ったら楪ちゃんと一緒に下着をちゃんと買ってきなさい!」
「えー。俺が行かなくても、君達の誰かが付き添ってやればいいじゃん、俺は店の外で待ってるから」
「行きたいけど私は今週バレー部の大会があるから」
「行きたいけど私はバスケ部の大会があるの。レギュラーだし」
「行きたいけど私は生徒会の手伝いがあるの」
「行きたいけど私今週末にお見合いがあるから」
皆忙しいな。というか最後のやつは何者だ。
「だったら、別に今日じゃなくても……」
「すぐに行かなきゃ意味が無いでしょ! 事故があってからじゃ遅いのよ!」
「槐さん、私一緒にお出かけしたいでーす」
「楪、お前はこっちサイドにいてくれないと、俺が四面楚歌になるだろ」
「よく言うじゃないですか。真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方であるって」
「よく言うけど、それだとお前は無能になるぞ」
「幽霊ですから中身は空っぽですもん」
「とにかく! 今日帰宅したらすぐに買って来なさい! いいわね!」
そんなこんななやりとりがあって、結局俺が折れることになった。俺VS楪+女子数人で勝てるはずも無い。




