11話 時期はずれの部活見学
「槐さん! さて部活ですよ部活!」
次の日の授業が終わるやいなや、楪は騒ぎ出した。
否。ずっと騒いでいた。
授業中は授業の妨害をしないように、俺だけに。放課中は、仲の良いクラスメイトに体験入部をするということを話しまくったので、俺は今日の授業の内容は全く頭に入っていない。
そして、女子が噂話を聞けば、それが広まるのは必然。
それを俺は失念していた。
「何々? 何かイベント?」
「楪ちゃんが部活に体験入部するらしいよ」
「楪って、あの幽霊の2年生の子? 興味あったんだー」
「楪ちゃんって、その憑いてるやつに一途なんだろ?」
「でも部活に入ってくれれば、絶対面白そうじゃん」
「幽霊とか抜きにしても、可愛い子が入ってくれればそれでいい」
というわけで、朝に楪が話したばかりなのに、下校の時刻には既に教室の外がごった返していた。
注目されているのは楪でも、楪が俺に構えば必然的にいい方向であれ悪い方向であれ俺にも注目が集まる。
「ねぇねぇねぇ、運動部に入るつもりがないんだよね? だったら新聞部とかどう? 姿を消せるスキルを生かして、いろいろな情報を得てみない?」
「茶道部でしょ! ナチュラル浴衣だもん! 大和撫子ここにありだよ!」
「映画部なんてどうかな? スタントマン無しでリアルな映像を!」
俺が教室から出ても居ないのに、時期はずれの勧誘合戦が始まった。
「わわわ~」
「おい、楪に無理に勧誘すんな。幽霊だからって何でもできると思ったら大間違いだぞ!」
それがうっとうしかったので、つい文句を言ってしまった。
決して楪のためではない。もう一度言うが、楪のためではない。
「あーあー、やっぱり柊は楪ちゃんの心配をしてるんだねー。迷惑そうにしてるのに、心配してるなんてー」
「やっぱりそうよねー。あんな可愛い女の子に迫られて、嫌な殿方はいないものねー」
「男のツンデレとかどこに需要があるのかな?」
「しかも可愛い系ならまだしも、無愛想な男だし」
「おい! 俺の悪口に自然にシフトすんな。後、梧! お前が率先して会話すんな!」
1番最初にしゃべりだしたのは梧である。こいつは面白そうなことがあるとすぐこうだ。
「槐さん……、私をなんだかんだで心配してくれるなんて。これが愛ですか!」
「余計なこと言ってないで、さっさと見に行くぞ」
このままだと俺に不利になっていく一方なので、楪の手を引っ張って教室の外に出る。
「ああん、引っ張らないでください~」
「変な声出すな!」
そして一応味方であるはずの楪も、なぜか俺を不利にしていく。一番の敵は味方かよ。
「それにしても、新聞部とか映画部とか、部活動多いですねー」
廊下を歩きながら楪が俺に話しかけてくる。
「ああ、ここは文化部の活動が幅広いし、掛け持ちも多いからな」
運動部に関して言えば、そこそこの強豪も多くて活動的なので、ちょっと活発というくらいだ。
だが、文化部に関しては、数が多くて活動があまり多くないというものが多い。
週に1回から2回程度の活動を行って、それを掛け持つという子も多く、中には運動部と掛け持つ子も多い。
その関係で、名簿上は部活を成立させる人数に達するので部活動の数は多くなるのである。
「それで、何から見るんだ」
そうは言っても、俺にとっては面倒くさいことこの上ない。楪の足取りに反して、俺の足取りは重い。比ゆ表現な意味でも、直接的な意味でも。そもそも楪は歩いていないので、足取りも何もないのだが。
足はちゃんとある癖に基本的には浮いているのである。別に文句も何も無いけど。
「じゃあ野球部に行きますか?」
「おーい、俺の昨日の話を忘れたのか?」
「えー、見るだけならいいじゃないですか。マネージャーという方向性もありますし、マネージャーなら槐さんは20m離れて読書してくれてもいいですし」
「分かった分かった。腕を引っ張るな」
「あ、大丈夫ですよ。本当にマネージャーしたいのは、槐さんだけですから」
「頼むからそれをそこで言うなよ。俺の敵が増える予感がする」
楪に悪意がないだけに、全く怒ることができないのが辛い。
というわけで、部活の見学が始まった。
「わー、早いですねー」
「同じ高校生とは思えんな」
楪がなぜかやたら押す野球部の見学がやはり最初になった。
「野球好きなのか?」
「そうですねー。お父さんが見ていたのをよく一緒に見てたので、他の球技よりは分かる程度です。選手もなんとなく分かります」
「そっか。俺はさっぱり分からん、でも見てるとすげーな」
野球部はちょうど試合形式の練習をしていたので、ピッチャーが投げる球、それを打つバッターと、同じ高校生とは思えない動きが目に入る。
「お、あの子楪ちゃんじゃね?」
そのうちに1人が気づいて、楪が注目される。
「おー、お前があの有名な幽霊の子とそのおまけか?」
「先生、一応俺をメインにおいてくれませんか? 生者でこの学校の生徒なんですから。しかも無関係でもないですし」
野球部の顧問をしているのは、檜先生。俺の去年の担任で、体育の担当でもある。厳しい見た目だが、その真顔で意外と冗談を言うギャップで人気の先生である。
「いや、今この学校においての知名度でお前は負けてるだろ。それでどうした? お前は体育はサボりはしないが、進んでやるタイプだとは思わなかったが?」
「いえ、今日は楪が用事です。青春といえば部活だ! とうるさいので、見学につれてきたんです」
「おー、まぁ邪魔しない程度になー」
「うぉぉぉぉ! バッチコーイ!」
「ランナーゴー!」
「バックホーム!」
何か楪が来る前と、その前でテンションが違う気がするぞ。
チラチラこっち(もちろん俺ではない)を見てるし。明らかにいいところを見せようとしているのが俺でも分かる。
「よし! 休憩!」
そして休憩タイムに入ると、楪に男子が何人か近づいてきた。
「どうだった? 楪ちゃん?」
その中でも身長があってかっこいい男子が楪に話しかける。確かさっきピッチャーやってた人だな。
「はい、あんなに早い球を投げられるなんて、すごいですねー。ぱちぱち」
ややかっこつけすぎな気がするが、楪はそれに対して素直に拍手をして褒める。
「キャプテン! お疲れ様です!」
「頑張ってー、社くんー」
どうやらそのピッチャーの人はキャプテンだったらしい。見た目もさわやかでかっこいいので、女子のマネージャーらしき子も嬉しそうだし、良く見ると、野球部に関係ない女子まで声援を送っている。
「どうかな? 野球が好きなら、僕は君を歓迎するよ」
かっけーな。このレベルまで来るとやっかみにすらならないのか、俺でもキュンときそうだぞ。
「是非君にタオルをもらったり、応援されたりしたいな」
そして決め台詞と決めポーズ。これはどうなる?
「あははー、すいません。私のタオルは槐さん専用ですし、応援したいのも槐さんですから」
「おい楪。とんでもないことを言うな。ピッチャーの人の落胆と、その他からの目線が痛い」
「えー、でも自分に嘘はつけませんよ」
「だったら何でマネージャーとか言ったんだよ」
「え? 私マネージャーやりたいとは言ってませんよ。選択肢にあるって言っただけで。本当にプレーしたかったので」
「で、では失礼します!」
あまりにも申し訳なくなったので、俺は野球部を後にした。




