10話 部活動へのあこがれ
そんな日々が1週間ほど続くと俺も慣れた。
柳先生のはからいで、俺の部屋に他の生徒が侵入してくることもなかったので、寮だけは平和である。
「楪……。漫画を読むのにこの姿勢は必要ないだろ」
「そんなことありませんよ~」
否、平和ではあるが、楪の距離間のつめ方が更に近くなる。
今は座っている俺の脚の間に楪が座っている。髪が目の前に来て、とてつもない香りを漂わせる。
楪は漫画を読んでいるのでいいが、俺は両手もふさがって、まともに何もできないので、余計にその香りが意識されてしまう。
「う~ん」
漫画を読みながら、ちょくちょく動いたり、伸びたりするので、押し付けられたりするし、髪が顔にかかってこそばゆい。
「……槐さん……、当たってます……」
「いやこれはさ……」
そして俺の俺が反応してしまう。
楪は俺に背中を任せて全身でもたれかかってきているので、どうしても俺の俺は楪の腰辺りに当たってしまう。そして反応するのは当然である。
「……私で興奮していただけるのは嬉しいんですけど……、まだお日様も高いですし……」
恥じらい顔+上目遣い。
「離れろ!」
それに理性を失いそうだったので、思い切り押してどかした。
「ああん、つれないですね」
「やかましい。男心を弄ぶのはやめてくれ。本当に我慢できなるなる」
「いいんですよ、願ったりったりですから」
「俺が良くない。まだ俺は学生だし、財力も社会経験もないんだから、責任ない行動は取れん……、あ……」
今の俺の発言って聞きようによっては……。
「……槐さん、私と野球のチームを作りましょう」
「ちょっと何言ってるか分からないな」
分からなくないが、変化球が飛んできて頭が混乱した。
「あ、そうだ、野球で思い出しましたけど、私部活をやってみたいんです」
「そうか、どっかに入れてもらえ」
「えー、槐さんはやらないんですかー。青春を無駄に過ごすんですかー」
「無駄に過ごしとらん。ちゃんと本を読んでる」
俺の趣味は読書である。漫画、小説種類問わずに面白いものを読みまくっている。
「そんなぼっち生活の何が楽しいんですか」
「いろいろな情報をインプットしておくんだよ。部活は所詮学校内の話で、部長とかやるなら別だけど、そこまで世界は広がらん。社会に出れば嫌でも部活みたいな経験をするんだから、今はこっちの方がいいだろ」
「いやですー、青春の汗を流したいんですー」
「駄々をこねるな。埃が舞う」
涙目になって、ごろごろ転がる。初めから遠慮が無かったが、さらにひどくなっていっている。
「もしよかったら、その汗を舐めてもいいんですよ?」
「レベルが高すぎるわ。俺が汗を舐めるわけがないだろう」
いくら可愛い子でも老廃物を舐めたいとは思わない……、そんな酔狂な人はきっと世の中には……少ない。
0と言えない今の日本。
「じゃあ……、私が舐めればいいんですか?」
「何で部活をやるのに汗を舐めるか舐められるかの選択肢しかないんだよ。それで俺がやりたいと言うとでも思ったか?」
「はい」
「真顔で返事すんな。そんな相手でいいのか?」
「槐さんなら、何をされてもいいんですよ~。もとい、何でもしてあげますよ~」
「いくら言ってもやらんもんはやらん」
「だって槐さんが側にいないと、部活なんか不可能じゃないですか~」
ちなみに言うと、楪は俺から一定の範囲を離れることはできないが、それに補足すると、強制力は俺のほうがある。
俺が楪から離れれば、楪は引きづられて、楪が俺から離れようとすると、ある一定の距離から楪は動けなくなる。
それに関しては、俺を金縛りにしようが条件は同じなので、楪の行きたい場所に行くには、俺の意思でそこに行かなければならないのだ。
「ちなみに聞くが、何部だ?」
「そうですね。バスケ部とか?」
「却下」
「何でですか!」
「お前浮けるんだから、何でもありになるだろうが。同じ理由で野球も不可!」
「ぶー」
可愛らしく頬を膨らませて、俺に不満の視線を向ける。
「いいか。スポーツにはルールがある。反則が可能な競技に下手に楪が参加したら、頑張ってる生徒のヤル気を奪うかもしれないだろうが」
空中浮遊、金縛りの能力を持っている楪がそれを使えば、大抵の球技はどうとでもなってしまう。
「じゃあ文化部でもいいですから。部活したいです! 青春=部活です!」
「却下」
「槐さんのバカ! ケチ! 眼鏡野郎!」
「かけてない!」
「不能! 機能不全! 童貞!」
「それ部活関係ないだろ! 後不能じゃない!」
「じゃあ証拠を見せてください!」
「望むところだ! とはならないぞ」
俺が乗ったかと思ったのか、満面の笑みで口元をだらしなくしていたが、最後の発言を聞いてがっかりしていた。この肉食系幽霊が。油断も隙もあったもんじゃない。
「じゃあせめて体験入部だけでもさせてください! それなら迷惑もかけませんし、定期的に行く必要もありませんよね?」
腕を組んで考えていると思ったら、それなりの妥協案を出してきた。
どうだ? これを断るのは簡単だが、楪のことだ。俺があきらめるまで絶対にあきらめないだろうし、下手にこいつにやけになられて、クラスメイトとか男子にこのことを話されると、強制的にどこかに入部させられる可能性も低くは無い。
だったら、この辺りが落としどころではあるか。
「分かった。じゃあ放課後に少しだけ見学する時間をやるよ」
「わーい!」
そしていつものハグである。もうどかすのも面倒なので、そのままにしておく。
「槐さんはなんだかんだで優しいですよね~。私のことを追い出したりもしませんし、我がままも許さないかと思えば、完全には止めないですもん。嬉しいです」
こうして、2年生になって、少し経った時期という、通常ではありえないタイミングでの体験入部を行うことになったが、楪のこともあったので、あっさり受け入れられたのであった。




