最期の願いは……[前原尚希編]
小児看護の実習。
勝手な想像だったのかも知れないけど、「もしもしさせてね」「いやぁ」「すぐ終わるからね」「痛くない?」「痛くないよ」というほのぼのしたものを想像していたのかも知れない。
よつ葉と前原君は[外科系]→[内科系]→[隔離病棟]という順番で受けている実習。
小野君は[内科系]→[隔離病棟]→[外科系]という順番で受けている。
よつ葉は外科系の実習で4歳の女の子を担当しました。
よつ葉が実習の初日に指導看護師さんと救急病棟のICUへベッドを持って迎えに行きました。そして、治療看護ではなく看取りの看護でした。
前原君の担当していた患者様は、公園の遊具から落ちて骨折した女の子。
まさに、よつ葉が想像していた実習をしている前原君。
正直に言うと、同じ実習生なのにこの差はなんだろう?という思いも無いわけではない。
選り好みができるわけでもないので受け入れて実習を受ける看護学生。
それぞれが担当患者君、担当患者ちゃんのために看護にあたり課題病棟の実習を受ける。
そして1週間で新たな病棟に移り実習を受ける。
内科病棟でも担当患者君の症状の重さにため息がこぼれた。
前原君も今回はよつ葉と同様で症状の重い患者ちゃん。突然の吐血に戸惑いアタフタしていた。
「ナースコールした?」
「体位変換しないと!」
思わず声をかけた。慌ててナースコールをする。サチュレーションの数値が下がっている。
酸素がうまく取り入れられていない。
酸素マスクを準備して医師と指導看護師を待つ。
主治医が来た後は、前原君に任せてナースステーションに戻り必要な物を取り自分の担当患者君のところに戻る。
重篤患者様が初めてではないはず「成人急性期看護」を受けてきたから。
大人か小児かの違いであって、助ける命の重さは変わらない。
そんな思いをしながら最終課題の隔離病棟の実習に入り、慣れてきた3日目の今日、
前原君に突然の試練? 洗礼?が訪れた。
隔離病棟ナースステーションの電話が鳴り響いた。
主任看護師さんが電話対応している。そして前原君と前原君の指導看護師が呼ばれた。
後から聞いたことですが……
内科病棟で担当していた担当ちゃんが「お兄ちゃん会いたい」とのことだったようです。
普段は、患者様がいくらわがままを言ったとしても望みが叶う訳ではありませんが……とした上で本題を切り出されたそうです。
「前原さん、異例ですが内科病棟のナースステーションへ行ってください。そしてあちらの指示を聞いてください」と言われたそうです。
内科病棟ナースステーションに前原君が顔を出すと、指導看護師だった方が前原君に
「○○ちゃん、余後宣告を受けたの。数値も日々落ちてる。お母さんが何かしたいことは?って聞いたら「お兄ちゃん(前原君)に会いたい」って事だったらしくご両親が前原君の大学に連絡をしてもらえないかお願いをされたそうです。実は隔離病棟で実習中と伝えると会話できるうちに会わせてあげたい。と相談されました。看護部長と相談した結果、実習成績も申し分なかったのもあって今回、異例だけど今日1日だけど看護してあげて」
と言われたそうです。
前原君が担当していた時、抗がん剤を使用してその処置で効果があるのか検査をしたところで実習終了したので前原君も結果は気にしていましたが、まさかの結果に心痛めていました。
その日の実習終わりに隔離病棟に戻ってきて指導看護師さんに報告していました。
前原君の男泣きというものを初めて見ました。
「大丈夫?」
「俺さぁ、なにもしてないのに"お兄ちゃん、ありがとう"って言うんだよ」
「うん、泣いていいよ。よつ葉の胸貸そうか? 背中でもいいよ? 肩にする?」
「ばーか。でも、サンキューな」
と言って辛そうでした。
看護学生に避けて通れない実習のひとつかといえば、こういう場面を実習しない学生もいます。
前原君とも話しましたが
「病院からの信頼だと思って、俺らにしかできないことをしてあげれたら良いな」
「うん。私たちらしく看護しよう」
そう約束をして1日の実習を終えました。




