インターンシップの学生から患者の立場になった よつ葉。
今回のインターンシップは、担当教授のお勧めで[精神科]での看護実習。
不安と緊張感で押し潰されそうでした。
9月から始まる病院実習の中に[精神看護3週間]とありますから、避けては通れない診療科。今日は、単位を必須としないインターンシップ。自分らしく学ばせていただこう。
看護学生控え室で着替えて待機していると、精神科病棟の看護師長と看護部長と病院長が入室されました。
その時、入り口側の一番前の席だった私に
『あれ?、泌尿器科の臨地実習に来てた子だよね? ☆☆大学の菜須さん?』
いきなりの言葉にびっくりしましたが
『はい。泌尿器科で勉強させていただきました』
と言うと、看護部長が病院長に
「臨地(実習)で唯一、S単位(最高単位取得)を取った学生です」と説明してみえました。
「ほぉ、楽しみな学生だな」
と看護部長に返す病院長。
二人に「しっかり学びなさい」と声をかけていただけました。
それぞれの挨拶とお言葉がありました。
いよいよ精神科病棟で勉強させていただきに向かいました。
看護学生、驚いたのが病室に鍵がかかっている病室があること。奇声が聞こえて看護師さんが走る姿。病室から応援を呼ぶ声に、駆けつける看護師。
何か、他診療科とは雰囲気が違いました。看護学生が足を踏み入れて良いような場所では無いような気がして仕方ありませんでした。
実習服(学校指定のナース服)を身に付けている私達は、看護師の卵。
ここに入院している方々は、同じ病名であっても症状は十人十色。症状の出方や強さ受け止めかたも人それぞれ。
言葉がけに一番配慮しないといけない診療科。他の診療科では言える言葉でもここでは禁句な「頑張りましょうね」の言葉。無口になっていく看護学生。
現場は、想像していたよりも遥かに大変そうで、私達は何を学んで何を感じとっていくのであろう。
学生それぞれの指導看護師について病室に行く。最初の患者さんは、38歳女性。病名、その他は割愛させていただきます。
『○○さん、看護学生の菜須さんですよ。仲良くしてあげてくださいね』
と紹介してもらい続いて私が挨拶をしました。
『まぁ、可愛らしい子。いくつ?』
患者さんに質問されました。
『21歳、大学3年生です』
笑顔を添えて返事をすると
『若~~い、お肌ピチピチね。羨ましいわね、野上さん』
指導看護師さんの野上さんは
『若いって素敵よね。2・3日寝なくてもいけそうよね』
と患者さんと盛り上がる指導看護師の野上さん。
『ねぇ、菜須さん』
『はい』
『松本先生、イケメンよ。菜須さん可愛いから捕まっちゃうわよ』
楽しそうに話をしてくださる。でも、この調子が良いのも薬が効いているからと看護記録と指導看護師から聞いて理解はしているが、このあとの様子に目を見張ることになるなんて、思いもよらなかった。
『あはは、そうかもしれないわね。見張っておきます』
指導看護師の野上さんが助けてくださった。
病室を出て、次の患者さんの病室を訪ねる。紹介してもらい挨拶をして言葉を交わして病室を出る。
午前中は、大きな変化もなく過ぎ、もうすぐ昼食の時間。食前の投薬をされている人に薬を渡し目の前で飲んでもらう。食後に薬を処方されている人にも同様に目の前で飲んでもらう。薬を服用を確認したら看護記録にサインしておく。徹底した管理体制。
野上さんがナースステーションで教えてくださった。薬をその場で飲んでもらうようにしたのは、飲まずに隠しておいて纏めて飲んでしまう患者さんがいるから、誰がそうで誰が違うかわからないから全員管理下に措こう。ってなったのよ。との説明に納得する私。
シーツ交換を行ってもらっている間にシャワーを利用できる患者さんは順番でシャワーを利用するが、誰かが見守りながら行ってもらう。シャワー室から呼ばれるときもある。患者さんの希望を叶えてあげる。(シャンプーどれ? 洗って!)など様々。話し相手になりながらシャワーを楽しんでもらう。
『なっちゃん、ありがとう』
どうやら私は、なっちゃんらしい。
『どういたしまして。気持ちよかったですか?』
『うん、久しぶりだから気持ち良かった。なっちゃん洗ってくれたし』
シャワー中、何事も無くてホッとする。髪を乾かしてあげているときも楽しそうに
『なっちゃん、松本先生イケメンよ。みた?』
と松本先生をおすすめしてくれるが、松本先生にお会いしていないので返事に苦しむわぁ…。
『いいえ、まだお会いしてないです。そんなにイケメンなんですか?』
と聞くと嬉しそうに笑顔で
『凄くイケメンよ。絶対になっちゃんにいいと思うの』
お勧めされる松本ドクター。私達の会話を笑って聞いている野上看護師。
『菜須さん、松本ドクターに会ってみる? あははは』
なに? ここって、病棟だよね??
明るい雰囲気で進んでいくインターンシップ。
和やかに過ぎていた時間が、突然崩れた。
今まで落ち着いていた担当させていただいていた患者さんが急に暴れだした。主治医と指導看護師、手の空いている看護師で病室に向かう。
『菜須さんもいらっしゃい。ちゃんと見なさい。辛いかもしれないけどこれが精神科だから』
と言われ病室に向かった。主治医が注射の指示が飛ぶ。私と指導看護師とで押さえる。
ベッドに手と足を固定する。暴れないように、自傷行為をしないようにの意味を込めて。
暫くして落ち着いてきて、意識もしっかりしているが失禁。着替えとシーツ交換などが行われている。下半身の清拭を任されたので準備をして病室に戻り指導看護師さんと患者さんの下半身の清拭をしてあげているときに問題発生。
下半身を拭き終わり下着を着けるかオムツにするか?と相談していたとき、いきなり私に襲いかかってきた。
『◆◆(離婚した旦那様)を、返して』
と言いながら首を絞められました。もうびっくりしたのと苦しいので私の方がパニック状態。まさか患者さんを突き飛ばすなんてできないし、されるがままの私に、直ぐに医師、看護師が病室に来て私から患者さんを離してくれました。
私は患者さんに向き合えず、怖さから呼吸が乱れ、後から病室にきたドクターに
『ゆっくり息をして』
と言われたが思うように息ができなくて余計に焦ってしまいゆっくり呼吸をすることができないでいた。
処置室行くよ。の声がしたような気がした。気づいたら処置室で点滴を受けていました。
『よつ葉ちゃん、気がついた?』
・・・?!
『…田崎せんせぃ』
『過呼吸の発作だった。首は、何か症状あるかな?』
・・・病室での出来事が蘇り、手が震え両手を合わせ震える手を押さえる。
『よつ葉ちゃん、大丈夫だよ。落ち着いて』
声をかけながら診察を進める。
後から聞いた事ですが、精神科で倒れてカルテを作成しようとしたら既にカルテがあり主治医に連絡が入り、駆けつけてくれた田崎医師。
田崎医師は心療内科医。
安心したのか涙が止まらなくなった私に田崎医師は、私が落ち着くまで待ってくれて、落ち着いた頃を見計らって再開された診察。
『首に違和感が残っている感じがする』
と言うと、田崎医師は私が取り乱さないように言葉を選んで話を進めてくれた。
『圧迫されたからね。数日で違和感無くなると思うけど続いたら受診して。それと、独り暮らしだったよね、夜中とか何かあったら直ぐ連絡入れて』
と言ってくれた。勉強しに来たのに、患者になっている私が情けない。突然の事に対処できなかったうえに過呼吸
その後、直ぐ精神科の指導看護師の野上さんと看護部長が処置室に来てくださり心配と謝罪をしてくださいました。
病院長から大学の看護学部へ連絡が入れられていて、大学の看護学部部長先生と私の担当教授の梅田教授が来てくださいました。
なんか、大袈裟になってしまった罪悪感と恐怖で泣くことしかできない私。
看護学部部長先生と病院長・看護部長と話をして下さいました。
たまたま、私の主治医が居たということでこのまま治療を行うこと治療費は病院側で支払うから心置きなく治療に専念して欲しい。と言って下さいました。なんか、申し訳ないので「大丈夫です」と伝えると『こういうときは、大人に甘えなさい』と言われました。
来週のインターンシップ迄には、立ち直りたいと思っています。




