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第18話 魔女王カーシャさん

 再び国中のテレビがジャックされた。

 その内容とは、カーシャは世界の敵であり、ハルカ率いる〈薔薇十字〉はカーシャを討伐してみせるというもの。

「じゃあ、ハルカとルーファスはカーシャを討伐に行っておいで(ふあふあ)」

「「はぁ!?」」

 本日何回目だっただろうか?

 またまたハルカ&ルーファスは声をそろえて驚いた。

「ちょっと待ったローゼンクロイツ、君はもしかして行かない気?(カーシャを敵に回すなんてできるわけないじゃん)」

「そうだよ、アタシはただの猫だし(にゃ〜んってね)」

 二人の発言はなかったことにされて、ローゼンクロイツは先に話を進める。

「ところでルーファス、魔女はどこに行ったんだい?(ふにふに)」

「あー、それは私とカーシャがはじめて出会った場所(思い出しただけで寒気がする)」

「どこ?(ふにゃ?)」

「地獄の雪山野外実習だよ」

「あの実習でルーファス遭難したろ? もしかしてそのときかい、カーシャと出会ったの(ふにふに)」

 ルーファスが無言で深く頷いた。

 そう、あのときルーファスはカーシャと出遭った。しかし、遭難して帰ってきたルーファスはそのことを誰にも話していない。聞かれてもなにも覚えてないとウソをついていた。その理由はもちろん、カーシャによる説得(脅迫)があったからだ。

 その野外実習があったのはグラーシュ山脈。そこはクラウス王国の北に位置する極寒の山岳地帯。クラウス王国全体はやや温暖で過ごしやすい地域なのだが、この山脈地帯だけがなぜか気温が異常なまでに低い。その気温は平均で零下二五度に達し、最低気温はだいたい零下五〇度まで達するという。

 隔離された山脈には独自の生態系が存在し、珍獣ホワイキーの目撃談もある。

 魔導学院に入学した一年生がはじめて行なう野外実習がここだった。あまりにも無謀なため、毎年、怪我人病人が出る地獄の校外実習なのだ。魔導学院の実習で怪我人の出ない実習はないのだが――。

 ローゼンクロイツの瞳が妖しく輝きだし、五芒星が浮かび上がった。

「じゃ、がんばってきてね(ふにふに)。ボク、寒いの苦手なんだ(ふあふあ)」

 話を切り返す猶予すら与えられなかった。

 次の瞬間、ハルカ&ルーファスは極寒の雪山に放置されていたのだった。

 寒い、寒い、じつに寒すぎる山脈。凍え死にそうなくらいに寒い。いや、凍え死ぬ。

 気づいたらグラーシュ山脈に空間転送されていた。

「ローゼンクロイツって空間転送まで会得してたのか(やっぱ僕とは比べ物にならないほど天才だな)」

 空間転送の魔導は、どんな優れた魔導士でも失敗が大いにありえる魔導で、まともな神経の持ち主ならまずやらない。失敗した場合は、亜空間の狭間に閉じ込められて出られなくなることもある危険な魔導なのだ。

 てゆーか、今は過ぎ去った危機より、今ここにある危機。

 極寒!

 なんの準備もなしで、グラーシュ山脈に来るあふぉーはいない。いたとしても、温泉ツアーだと騙されて、普段着で連れて来られるクラウス魔導学院の一年生くらいだ。

 凍え死ぬ前にルーファスはポケットをゴソゴソした。

 チャチャチャチャーン、クラウス魔導学院購買部特性カイロ♪

 クラウス魔導学院で冬になると売り出される使い捨てカイロ。太陽神アウロと炎の精霊サラマンダーの術を施した特別製だ。どんな極寒でも快適な温度に体温を保ってくれる。

「たまたまカイロポケットに入ってなかったら死んでたよ」

 ルーファスとハルカはカイロを貼って、防寒対策万全で雪山の中を進んだ。

「はにゃーん、なんかぽかぽかして気持ちー(こたつの中に入ってるみたい)」

 夢心地のハルカ。こたつを愛するハルカはこれでまたネコに一歩近づいた。

 ハルカが眠りそうになってすぐに、その城は見えてきた。氷でできたような城――シルバーキャッスルだ。

 城の壁は石でできているが、その周りは全て氷に包まれ、城から突き出る塔はまるでつららを逆さまにしたような形をしている。

 城門は開けられていた。もしや、これは『かかって来れるもんなら来てみろ!』というカーシャの意思表示なのかもしれない。

 城の中を進むルーファスとハルカ。蒼い炎が灯る廊下を抜け、玉座の間まで来た。

 ここで一行を出迎えたのは?

 準備中の看板。

「なにこれ?」

 とハルカが尋ねるが、ルーファスにもわからない。

「私に訊かないでよ」

 なんて会話で場を繋いでいると、奥の部屋から白い影が姿を見せた。

 金色の髪を揺らし、薄手の白いドレスを着た優美な妖女。

「誰あの金髪?」

ハルカは不思議な顔で言ったが、ルーファスは身も凍る思いで、一歩後ろに足を引いた。

「また金髪に戻したんだねカーシャ(カーシャが僕のこと恐い目して見てるよぉ)」

 金髪の女性はカーシャだった。ハルカの知っているカーシャの髪の毛の色は黒だ。

「……ふふ、ぬけぬけとようこそ我が城、シルバーキャッスルへ(ここに来たからには、身も凍るような、あ〜んな目やこ〜んな目に遭わせてやる)」

 金髪のカーシャ――それは当時はじめてルーファスが出遭ったカーシャの姿。

 カーシャはモジモジしながら、背中のホックを閉めていた。

「貴様ら来るのが早すぎるぞ。妾が箒をぶっ飛ばして来たというのに、貴様らが来るのが早いので準備が整ってないではないか。ルーファス、ちょっとこっち来てホックを閉めてくれ」

「は、はい」

 ここになにしに来たんだか、ルーファスは命じられるままドレスのホックを閉めた。

 ホックも無事に閉め終わり、準備中の看板も取り払われた。

 仕切りなおしにカーシャが咳払いをした。

「コホン、さて貴様なにをしに来たのだ?」

 実はこのとき、アステア王国全土では、聖王ハルカVS魔女カーシャの戦いが巨大ホログラムスクリーンによって映し出されていたのだ。もちろんローゼンクロイツの仕業だ。

 ハルカVSカーシャの映像を流して、見事ハルカがカーシャをやっつける映像を全世界に広めようとしているのだ。

 ローゼンクロイツの思わく通り、人々は戦いを見守り、ハルカを応援した。

 そういうわけで、この戦いは『実況中継』されていた。

 この実況をしているのはローゼンクロイツの雇った実況のプロと、特別解説員としてクラウス魔導学院の黒魔導教員ファウストが呼ばれていた。

「なかなか、面白い戦いだ。クク……私は誰が勝とうが構わないがな」

「おおっと、ルーファスがカーシャに歩み寄っていきます、なにをする気か!」

 実況中継どおり進んだルーファスは、カーシャのシャキッとビシッと足を止めた。

「軍隊がここに攻め入ってくる前にさ、全部ジョーダンでしたで済まそうよ」

「ヤダ(ぴょ〜ん……ふふ)」

 即答だった。カーシャは人の言うことを聞くのが嫌いな女だ。

「そこをなんとさ(どうにか丸く治めないと)」

「ヤダ(ぴょ〜ん)」

 また即答だった。もう一度確認のために言うが、カーシャは人の言うことを聞くのが大嫌いな女だ。

 ルーファスの傍らに立ったハルカからも説得。

「ねえカーシャ、世界征服なんてよくないと思うの、ねっ?(この人に世界征服なんてされたら……恐い)」

「ヤダ(ぴょ〜ん)」

 またまた即答だった。改めて言うが、カーシャは人の言うことを聞くのがちょー大嫌いな女だ。

 カーシャは目を瞑り、語るようにしてルーファスに尋ねる。

「ルーファスと妾はこの城で出逢った。あのときのことを覚えているか?」

「忘れるわけないだろ、私が雪山で遭難してこの城に迷い込んで、それでカーシャの眠りを覚ましちゃんだよ」

「そのとおりだ。過去の大戦で妾は重症を負い、エネルギーを癒すために装置の中で深い眠りについていたのだ。そして、不完全状態で妾はおまえに起こされた。それだけだったらよかったのだが、その際に妾のエネルギーの大部分が世界に還り、残った分までもおまえが吸収してしまった」

「だから、死ぬほど謝ったじゃん」

「もう気にしてはおらん。装置を直す技術が今の世界にはないがな!」

 思いっきり気にしているらしい。

 グサッとカーシャの言葉がルーファスの胸に刺さった。物理的な戦いがはじまる前に、精神的な戦いでルーファスは敗北した。

 そんなときだった。この場に新キャラが登場したのは!

 白髪白髭の杖を突いた見るからにヨボボヨの爺さんがこの場に乱入してきた。

「やっとこさ見つけたぞ、魔女王カーシャよ(こやつを探すのに、はて、何年くらいの月日を費やしたかのぉ?)」

「誰だおまえは?(この爺さんは誰だ?)」

 全く記憶に御座いません状態のカーシャ。この老人の正体とは?

「わしのことを忘れてしもうたのか、この魔女が。わしは……わしは……どこの誰じゃったかの?(ロバート、ポール、エリザベスじゃったかの?)」

 この老人はだいぶボケていた。

「ああ、思い出したぞ、わしの名前はハインリヒ・ネッテスハイムじゃった(少しボケたかのぉ?)」

 だいぶボケている。

 名前を聞いてもカーシャはこの人物について思い出せなかった。もしかして、老人は自分の名前を勘違いして、別の名前を言ったのか。いや、違う、これが彼の本名で、人々に知れ渡っている名前は別にある。

 驚いたルーファスは裏返った声をあげた。

「もしやあなたが、かの有名なアグリッパ様ですか?(……そんなわけないか、このボケ老人がね。そもそも歴史上の人物で生きてるはずない)」

「おお、そうじゃ、その名前じゃ。その方が世間様に知れ渡っておる」

「ああ、思い出した(だいぶ歳をとっていたので見た目ではわからなかった)」

 ぼそりと呟いたカーシャはやっと思い出した。この男は『過去』にカーシャを討伐するために編成された魔導士の一団のひとりだった。

 だが、今ごろカーシャの城を見つけるなど、たまたまカーシャがここに帰っていなかったらどうする気だったのか?

 むしろ今まで探し続けていた彼の根性はスゴイと褒めてあげたい。なんせ、一〇〇〇年以上もの月日を費やしているのだから。

「よく、人間が永い時を生き長らえたものだな。で、今更アグリッパが妾になんのようがあるというのだ……まさか妾を倒すなんて言うわけがないな。(こんなご老体のヨボヨボ爺さんがな)」

「わしの仲間は長い時の流れの中でみんな死んでしまったわい。残っているのはわしだけだ。仲間のためにもお主の首を貰わねばならん。じゃが、なぜわしをお主の首を狙っておるんじゃったかの?(こそ泥だったか、わしの逃げた女房だったか?)」

 ボケてまで追い手を追い続けるとは大した執念だ。もしかして、ボケていて年月もわからなかったのか?

 このアグリッパがカーシャ討伐の旅に出たのは、もちろん過去に魔女王としてカーシャが人々に恐れられていたからだ。

 キラリ〜ンとカーシャの目が妖しく輝いた。またまたトンデモないことを言いそうな空気がこの場を包み込む。いや、絶対言う(断言)。

「では、こうしよう。ハルカ&ルーファスチームとアグリッパと妾で三チームに分かれて戦い、勝った者が世界を自分のものにしていい権利を持つことにしよう。魔導砲の制御装置はこのイヤリングだ。これを勝者にはくれてやる(勝つのは妾だがな、どんな手を使っても妾は勝つ……ふふ、卑怯者)」

 蒼い宝石の付けられたイヤリングが妖しく輝く。

 アグリッパは杖を高く上げて笑い出した。

「ふぉふぉふぉ、そうじゃったわい。わしは全世界の覇権を賭けて戦っているんじゃった……ハルカを手に入れたら私の勝ちだ」

 自分の名前を呼ばれたハルカはひどい身震いをしてしまった。違う。この人アグリッパじゃない。

 国民たちが今から起こる戦いに固唾を呑んでいたとき、突如としてライブ中継していたカメラにノイズが入り、中継が中断されてしまった。

 そのとき現場は!?

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