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第10話 今日からキミが神様だ!

 ハルカは思う。

「(人間じゃない自分の姿を見て、どう思うんだろ)」

 ルーファス宅の玄関に立つカーシャ。その手には携帯用のペットハウスが持たれていた。

 ドアは内側から開かれた。

「お帰り!」

 飛び出してきたのはルーファスだった。

 ルーファスはすぐに辺りを見回しハルカの姿を捜した。だが、そこにいるのはカーシャだけだった。

「ハルカはどこ?」

「安心しろルーファス。ハルカならばここにおる」

 ペットハウスがガタガタ揺れ、カーシャはペットハウスを地面に降ろしてフタをあけた。

 中から黒くしなやかな前足が伸びた。

 思わずルーファスの顔が『えっ!?』になる。

 ペットハウスの中から出てきたのは黒猫。でも、ただのネコじゃない。なんと、このネコは人間の言葉をしゃべれるのです!

「……ルーファスただいま」

 聞き覚えのある声だった。そして、ルーファス驚愕!

「は、ハルカ〜っ!?」

 黒猫=ハルカは小さく頷いた。

「ネコになっちゃった(出目金よりはマシでしょ?)」

 しばし沈黙のルーファス。彼が次に取った行動は、カーシャの胸倉をつかむことだった。

「ど、どういうことだよ?(ネコってなんで? カーシャがネコ好きなのは知ってるけど)」

「ルーファス、そんなに妾の胸を触りたいのか?」

「ちゃ、違うよ!」

 カーシャの胸倉からすぐに手を離し、顔を真っ赤にしたルーファスが後ろに飛ぶ。

「僕の話を濁すなよ!」

「応急手段と言っただろう。それにな、思わぬ副作用でハルカは魔導具なしでこちらの世界の言語を理解ししゃべることができるようになったぞ」

 黒猫になったハルカはワザとらしく、ネコっぽく、ルーファスの足に顔を擦り擦りした。

「にゃ〜ん♪ そういうことだからよろしくねっ!」

「はぁっ?(なんで、こうなるの!?)」

 ルーファスは頭を抱えて悩んだ。頭痛が襲う……可哀想なのはいったい誰なのか?

 黒猫見習いのハルカと、なんちゃって魔導士ルーファスの生活が幕を開けちゃう雰囲気だ。

 果たしてハルカは人間に戻ることができるのか!  むしろ家に帰ることはできるのか?

 ハルカの運命はどうなってしまうのか!?

 と問題山済みだ。

 とにかくハルカとカーシャを家の中に上げた。

 リビングではハルカたちの帰りを持っていたローゼンクロイツが、デリバリーで注文したイチゴパフィを無表情で食べていた。近くにはピザもある。

 黒猫がハルカだとすぐにわかったローゼンクロイツが思わず立ち上がった。ローゼンクロイツにしてはリアクションが大きい。手にはイチゴの乗ったスプーンを持ったままだ。

「まさか、本当にこうなるとは思ってもみなかったよ(ふあーっ!)。新世界の幕開けは近いね(ふにふに)」

 意味不明の発言だ。

 眼に感情を宿さないまま、ローゼンクロイツの口元だけが笑みを浮かべた。クリームのついた口元がチャーミングだ。

 ローゼンクロイツの手が素早く動いた。スプーンに乗ったイチゴがパクッと口の中に放り込まれ、そのスプーンがハルカを指し示す。

「キミは神だ(ふあーっ!)」

 声音はヒツジ雲みたいな感じだが、なんかよくわかんないけどスゴイ気迫が感じられる。

「アタシが神っ!?」

 言われたハルカも戸惑いを通り越して唖然だ。

 ローゼンクロイツの『キミは神だ』発言。この発言は愛の告白よりもある意味衝撃的な発言だ。

「今からその説明してあげるよ(ふあふあ)」

 無表情な顔についた口が一瞬だけ歪み、すぐに無表情に戻る。そして、ローゼンクロイツの説明がはじまった。

「細かい話はめんどくさいから抜かすよ、国を乗っ取ろう(ふあふあ)」

 衝撃の告白第二弾、『国を乗っ取る』発言。ハルカ固まる。ルーファスはあごが外れた。

 細かいどころか、話を飛ばしすぎだ。

 ――数秒の時間を要してハルカとルーファスが叫ぶ。

「国を乗っ取るってどういうこと!(この人テロリストなの?)」

「ちょっと、待った、なんで国を乗っ取るんだよ?(ローゼンクロイツはなにを考えているんだ?)」

 話が混沌としてきた中で、勝手にお茶をいれて飲んでいるカーシャだけが平然としていた。けれど、その口元は微妙にニヤニヤしている。

「ローゼンクロイツ、本当に国を乗っ取る気なのか?(ふふふっ、妾の血が騒ぐ)」

「国を乗っ取るのは魂の解放、全てのモノを天へと導くのはボクの使命ふあふあ

 幼い頃からローゼンクロイツと付き合いのあるルーファスが知る限り、ずっと電波系の子供で、しかも危ない思想を持った人物だった。よくこんなヤツが司祭や弁護士をしてるもんだとルーファスは思う。

 天を見つめるローゼンクロイツが身体をクルクル回転させる。電波を受信しているのかもしれない。

「クロウリーの書庫でいつも遊んでいたボクは、ある本と運命的な出逢いをしたんだ……ある意味偶然ふっ。アースは地獄だとされる書物が多い中、それには正反対のことが書かれていたよ(ふあふあ)。アースは真の楽園だよ、そのアースからきた者が世界を統治し平穏をもたらすんだ、素敵だろ(ふあふあ)。そしてね、預言書も見つけたよ、アースからきた救世主は死の後に蘇る(ふあふあ)」

 全てはそこからはじまった。

 ピタッと回ることをやめたローゼンクロイツの眼が輝く。澄んだエメラルドグリーンの瞳に浮かぶ六芒星。

「だからボクはいつか来る戦いに備えたんだ(ふあふあ)。ボクが〈薔薇十字〉の教祖〈薔薇の君〉さ(ふにふに)」

 クラウス王国で主に活動する秘密結社〈薔薇十字〉。秘密とされながらも国民の大半に知られる公然の秘密の組織である。

 その活動内容はとくに重い病を患う者を無料で救い、一部の特権階級しか知らない秘術などを一般人に広める活動をしていた。

 慈善活動をやっている団体のようではあるが、国やガイア聖教を主にした宗教団体に目をつけられ疎ましく思われていた。

 理由の一つ目は国の最高機密である秘術などが、この秘密結社によって一般人にも広まってしまっていたからだ。二つ目は、一般人には手を出さない〈薔薇十字〉だが、ガイア聖教には積極的な攻撃を仕掛け、式典の妨害など過激な活動もしていた。

 六芒星を映した瞳がルースファスたちを射抜く。

「ボクらが政府やガイア聖教と仲が悪いのは知ってるだろ(ふにふに)。でもね、本当の敵はガイア聖教とも繋がっている魔導結社〈銀の星〉さ(ふにふに)」

 ローゼンクロイツの独断場と化してしまったこの場。このままだと絶対に大事に巻き込まれてしまう。そんなのイヤだ。だからハルカは前足を挙げた。

「はーい、そんなことよりもアタシは自分の世界に帰りたいかなって(ルーファスの友達って滅茶苦茶な人多すぎ。カーシャとローゼンクロイツしか知らないけど)」

 ピンクのカップでお茶を飲んでいたカーシャがハルカに視線を向ける。

「だがなハルカ。おまえがこの世界の召喚された理由を考え、その契約に基づくならば、おまえは世界征服をしなくてはいけなかったはずだ。つまり、世界征服を達成することにより、おまえの世界に強制送還される可能性があるぞ(思いつきで適当に言ったのだが)」

「アタシそんなことできないってば!(世界征服なんてできるわけないじゃん)」

「方法が見つからぬのであれば、思いつく限りのことをやってみるしかあるまい(世界征服か……血が騒ぐな、ふふっ)」

「そういう問題じゃないし。そんなことよりアタシの身体を元に戻してよ!(なんかもうサイテー)」

 もとの世界に帰る前に、まずは身体を元に戻すのが先決で、ごもっともな意見だ。このまま猫のまま帰ったら大変なことになるのは目に見えている。

 話を一通り聞いていたルーファスが、自身なさ気に手をゆっくーりと挙げた。

「あー、さっきは思いつかなかったんだけど、ネコじゃなくてホムンクルスにハルカを移せばよかったんじゃないかな?」

 鋭い指摘にローゼンクロイツもカーシャも動きを止め、ハルカの中で風船が爆発した。

「なんかもっといい方法あったわけ? なんで早く言わないのバカじゃないの!」

「ごめんハルカ。ごめんねハルカ(責任は僕が取る。身体も戻すし、ハルカの世界にも帰すよ)」

 今回はネガティブモードを発動させることなく、ルーファスはため息をついて俯くだけだった。そんなルーファスを見ると怒るに怒れず、ハルカは押し黙ってしまった。

 いろんな感情が入り乱れ、ハルカはなにがなんだかわからなかった。

 ソファからルーファスが立ち上がる。

「パラケルスス先生を訪ねよう。ホムンクルスを応用してハルカのクローンを作ることが可能かもしれないから。それから、今日はもう遅いから、ピザ食べたら帰ってね」

 疲れたように全員に背を向けてルーファスは寝室に消えていく。

 その途中で、ゆっくりと振り向きハルカに告げた。

「必ず元の身体に戻してあげるから。それとさ、ハルカはネコになったんだし寝室のベッド僕が使っていいよね、ねっ、ねっ?(久しぶりのふかふかベッド!)」

「う、うん」

「ありがとう(今日はぐっすり眠れそうだぁ)」

 スキップしてルーファスは寝室に消えた。

 さてと、ピザを食べようとハルカがテーブルを見ると、ない!

 ピザがない!

 ハッとしてハルカは二人を見た。

 何食わぬ顔をしているローゼンクロイツとカーシャの口元には、トマトソースがついていた。

「アタシも寝るっ!」

 こうしてハルカのネコとしての一日目が幕を閉じた。

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