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第1話 赤身のマグロ大作戦!

「にゃーっ!?」

 ――朝起きたら猫でした。

 鏡に映った自分の姿を見て、ハルカは発狂してしまった。

 視線の向こうでこっちを見ているナマモノ。マヌケ面でちょこんと座る、黒い毛並みの小動物は、まさしく黒猫。

 ハルカ・イズ・ア・パニック!!

 もちつけ……じゃなくて落ち着け!

 ここはどこだ?

 家だ!

 自分の部屋だ!

 焦ることはない!

 いや、焦ることはある!

 どっちだ!?

 ここはひとつ、崇拝するヘヴィメタルバンドのポスターに祈りを捧げてみるか?

「バカじゃないの、そんなことで解決するわけないじゃないの!」

 自分の行動をバカ呼ばわりして否定。

 突然、部屋のドアが開いて、謎の少女が飛び込んできた。

「お姉ちゃん! まさか帰ってきたの!?」

 サプライズな表情で入ってきたのは、ハルカの妹のカナタだった。もちろん二足歩行の人間だ。

 部屋を見渡すカナタの視線。

 黒を基調にした部屋に並ぶスカルコレクション。トゲトゲしたアクセや、ゴスゴスした服がベッドに投げ捨てられている。

「……いつか家出するんじゃないかと思ってたケド……帰ってきてお姉ちゃん」

「(アタシここにいるんだけどなー)」

 心で存在を主張しながら、ハルカはそーっとカナタの足元をすり抜けた。

 気配に気づいてカナタが振り返った。

 目と目が合う瞬間。

 黒猫はまん丸な瞳に涙を浮かべ逃亡した。

「(今のままじゃ帰れない)」

そんなこんなで家を飛び出したハルカ。

猫のままじゃ家に帰れない。

途方に暮れて歩き出すハルカの瞳が見開かれる。

道路の向こうから爆走してくる箒に乗った黒髪の美女。

 現代日本の住宅街では非常に珍しい光景だ。

「ありえないし!」

 叫んだハルカは次の瞬間、ぶつかって来た箒に跳ね飛ばされていた。

 しかも、運が悪いことに、ハルカの落下地点には口を開けたマンホールが……あっ、落ちた。

 ハルカ落下。

「にゃーっ!!」

 叫び声は真っ暗な穴の中に吸い込まれていった。

 急ブレーキで止まった箒の美女が呟く。

「なにか撥ねたような気がするが……ふふっ、気のせいか」

 遠くからパトカーのサイレンとランプが見えた。それを見た美女は再び箒を走らせたのだった。

 てゆーか、暗い闇の中に落ちたハルカの運命はいかに!


 シーマス運河が地平線の先まで伸びている。

その上空を羽の生えた爬虫類のような生物が滑空し、丘の上に聳え建つ立派な城が見下ろす王都アステアへと降りていく。

 市場で活気付く中央広場を見下ろす大聖堂。天突く大聖堂を一周して、石畳のメインロード上空を、なぞるように羽の生えた爬虫類――ドラゴンが飛翔する。

 世界三大魔導国家と名高い王都アステア。治安も比較的よく、裕福な階層が多く住む。魔導国家というだけあって、魔導関連の仕事に就いている者も多い。

古くからの外観を守る石造りの家が主流で、三角屋根を乗せた三階建てや四階建ての建物が目に付く。

その場所を離れ、東居住区に向かうと、庭付きの平屋建てや、二階建ても多く見られるようになる。

ドラゴンが飛翔した風の煽りを受け、ポストからはみ出すくらい溜まっていた手紙が、ひらりひらりと道路にばら撒かれた。

 地面に落ちた手紙の宛名を見ると、『ルーファス・アルフェラッツ様』と書かれてあった。

 手紙の先に目をやった庭着き平屋建ての借家が、魔導士ルーファスの家だ。

 ドッカーン!

 突如、ルーファス宅から、通りまで鳴り響くが爆発音が木霊した。

 慌てて近所の住民たちが、外に飛び出してくる様子もない。

 道路で遊んでいた子供たちが無邪気に笑う。

「やったぁ、またへっぽこが失敗したぞ!」

 ご近所では『へっぽこさんの家はどこですか?』で通じてしまう。大人から子供まで、お隣さんの猫まで、知らぬ者のいない、それがへっぽこ魔導士ルーファスだった。

 ルーファス宅の中は非常に汚い。

 部屋の中はカビや薬品臭く、とにかく散らかっている。

 リビングを埋め尽くす書物や魔導具やら、脱いだままの服などなど、バザーが開けるくらい選り取り見取りだ。簡単に言ってしまうと足の踏み場がない。

 テレビはつけっぱなしになってるし、ソファに座るには大規模な発掘作業が必要で、ホントにこんな秘境に人類が住んでるんですか?

 と、頭が痛くなりそうだ。

 表札には『ルーファス』とあるが、この部屋には人の気配がない。

 辺りを見回すと、洞窟発見!

 ――違った。地下室に下りる薄暗い階段だった。ある意味人工洞窟だ。

 地下の魔導実験室で、コソコソ動く影あった。

 ロウソクの明かりを反射して、巨大な眼が光った。

 まさか、洞窟に棲むモンスター出現かっ!

 ――違った。まん丸メガネを掛けた人影だった。

 マント付きの魔導衣に身を包み、生気の抜けたような灰色の長髪を、首の後ろでテキトーに結わいている。ご近所でも挙動不審で有名なルーファスその人だ。

 今日のルーファスは一味違う。普段のルーファスを知らない人にはわからないが、気合の入りようが違うのだ。

 しかも、なんだかプンプン怒っている。

「今日の今日こそあいつらをギャフンと言わせてやる」

 遡ること数時間前、魔導学院でドジったルーファスは、今日もバカにされて帰ってきた。そんなのいつものことだが、ちりも積もれば山となる。ついに山は噴火の時を迎えたのだ。

 汚名返上のため、ルーファスはビックな召喚の準備をしていた。それもかなり無謀極まりない召喚だ。

 大魔王ルシファーの召喚。邪神七将に名を連ねるルシファーの召喚は、未だかつて成功例のない難易度の高い召喚だ。

この大魔王を召喚しちゃって、自分のパシリとして顎で遣えれば、ルーファスの名は超ミラクル天才大魔導士ルーファス様として、世界にその名を轟かせることができるだろう。万が一、奇跡の運命連鎖が起きちゃった場合の話だが……。

 軽く咳払いをして、ルーファスは召喚に備えた。

 分厚い魔導書を片手にルーファスのメガネがキラリーンと輝く。

「えーと、なになに……ライララライラ……闇よりも暗き者……されど……陽よりも……黄金の翼……」

 メガネが輝いたわりには、自信なさ気にボソボソと、しかも棒読みだ。

 しかし、呪文詠唱をはじめたと同時に、地響きが地下室を襲い、棚に並べてあった赤青緑の薬ビンが、次々と床に落ちて激しく割れた。

 ゴクンと硬いツバを呑み込み、ルーファスは最後だけ大声を腹から出した。

「出でよ大魔王ルシファー……さん」

 床に描かれた幾何学模様の魔法陣が黄金の輝きを放った。

 ドーン!

 爆発と閃光が辺りを包み、カエルが鳴いた!

「グエッ」

 カエルじゃなくて、カエルのように地面に這いつくばるルーファスだった。

 そんなルーファスの上に座る二本の角を生やしたシルエット。

「痛いじゃないの! なにここどこ、アンタだれ?」

 立ち上がった謎のシルエットが、這いつくばるルーファスのわき腹に蹴った。

「ぐわっ!」

 痛みで顔を歪ませながら、ルーファスはゆっくりと立ち上がった。

 そして、硝煙をバックに立つシルエットを見つめた。

「(こ、これが……大魔王なのかな?)」

 ところどころ破れた網タイをはく脚が、黒いスカートから伸び、仁王立ちのポーズを決めている。角に見えたのはピンク色をしたツインテールだった。

 顔はどー見ても、十五、六歳の少女だ。

 少女を前にして、まだルーファスは召喚されたのはルシファーだと、頑張って信じようとしていた。

「(け、けど、格好はなんか悪魔的というか、仔悪魔っぽいぞ。ベルトみたいなチョーカーとか、トゲトゲのリストバンドとかが)」

 大魔王(仮)を見ながら、ルーファス意を決して質問タイム!

「(よし、ここは直接本人確認が確実だ)あ、あのぉ〜、あなたルシファーさんですか?」

 吊り上がった瞳でルーファスを睨む大魔王(怒)。

「ここどこなの?」

 ツインテールを揺らしながら、女の子(もしかしたら大魔王)は、グローブを嵌めた手でルーファスの胸倉に掴みかかった。

「なんでアタシここにいるの!? なに拉致監禁されたわけ、ちょーウザイんだけど」

「(なんか怒ってるっぽいぞ。いや、パニック状態か? しかも僕のこと誘拐犯扱いしてる?)あ、あの、その、ここは私の家の地下室でして……」

「やっぱり誘拐犯!」

 怒りの鉄拳炸裂!

 少女のパンチがルーファスの顔面に炸裂した。

 吹っ飛んだルーファスは鼻を押さえながら怯む。

「ちがっ、違う、そんな大それた真似、私にはできないよ(完全に勘違いされてるよ)」

「ここどこ? アンタなにっ?(マンホールに落ちたとこまで覚えてるんだけど)」

「私の名前はルーファス、ルーファス・アルフェラッツ。ここはアステア王国の王都アステア。日時までついでに言ってあげると、十三月六日サラマンダー」

「十三月ってなにっ!? うるう年の親戚かなんか?」

「……ええっと、時間もついでに言おうか?」

 袖を少し捲り上げて、ルーファスは腕時計を確認して言葉を続けた。

「午後六時十三分二五秒だよ(あっ、そろそろ夕飯の支度しなきゃ)」

「わかんないし、バカじゃないの!」

「わかんないって言われても……あなたルシファーさんですよね?」

「ルシファーって誰だか知らないけど、アタシの名前はハ・ル・カ!」

 やっぱりというか、召喚は失敗だった。ここまで粘ったルーファスはエライ。

「(ぐわーっやっぱり。生贄を人の代わりにマグロの刺身にしたのが原因かな。せっかくふんぱつしてマグロにしたのになぁ……赤身だけど)」

 当たり前である。召喚の手順は正しいに越したことなはない。しかも、マグロの刺身(赤身)を生贄にする魔導師なんて前代未聞だ――たぶん。マグロの値段が高かろうが安かろうが大した問題じゃない。どちらにしろ大失敗するのだから。

 眼を尖らせながら辺りを見ているハルカに、ルーファスは重たい声をかける。

「あ〜っ、立ち話もなんだから、上の部屋でゆっくり話そう……か?(生まれてこの方、召喚術がまともに成功したためしがない)」

 なのに、大魔王を召喚しようとしたルーファスはエライ。いや、無謀だ。

 そんなこんなでハルカは一階に案内されたのだった。


 聖カッサンドラ修道院の宿舎で、空色ドレスが振り返った。

中性的な顔に浮かぶ二つの瞳はエメラルドに輝き、その奥には五芒星が宿っている。

「イーマの月、アースより来たれり者……(ふにふに)」

 空色ドレスの麗人は窓の外を眺めていた。

 空は青ではなく、日が落ち闇に染まり、箒星が次々と尾を引いて流れていた。

 古来から箒星は厄災の象徴。

 空色ドレスの麗人が見つめる空の彼方、同じ空を見ていた黒髪の女性は嫌そうに呟く。

「だからウチが停電になったのか……ふふっ」

 黒髪の女性は箒に跨り、再び夜空をバックに飛びはじめた。

 また別の者を導かれるように空を読んでいた。

「イーマの月にアースから来たれり者……」

 その言葉を発したのは、ボンテージ姿の女に抱かれた幼児だった。

 幼児は口におしゃぶりをしゃぶっているが、その口ぶりも表情も妖々しく大人びていた。

そして、幼児の瞳の奥には六芒星が輝いていた。

「さてエセルドレーダ、行くとするか」

 エセルドレーダと呼ばれた女は、背に力を込めて蝙蝠のような羽を生やした。

「御意」

 と短く従い、幼児を抱いたエセルドレーダは空に舞い上がった。

 空を流れる箒星は、何を暗示しているのだろうか?

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