和服幼女と私
桜が舞い散り視界を桜色に染める。
道路を桜の花びらが埋めつくし、春特有の景色が広がっている。
この春、高校に入学してからはや二週間が過ぎていた。
秋くんとの登下校を断念せざるを得なくなったと思っていたのだが、私はある考えに至ったのだ。
転移したらいいんじゃね?と。
せめて、登校だけでも一緒に!と。
だが、またここに新たな壁が立ちはだかる。
問題点その1,秋くんの家を知らない。
問題点その2,転移先で他人に目撃されてしまう可能性。
問題点その3,そもそも転移で指定した場所に転移できた試しがない。
とまぁ、このような問題点があるわけだが、問題点その1は、何とか出来るだろう。その2も誤魔化せばなんとかなりそうだ・・。
けれど、一番致命的な問題点その3がこれがまたどうにもならない。
これはもう、天は二物を与えずということなのだろう。
素晴らしい力があれど、それを使いこなせないというのでは、意味がない。
転移について、少し話をしよう。
これは私が転移を使用した際の実例だ。
指定先→王都
転移先→ドラゴンの巣(幼竜・成竜など100匹との戦闘)
指定先→自宅
転移先→冥界(悪魔との強制鬼ごっこ)
指定先→自宅のトイレ(漏れそうだったんだよ!)
転移先→神界(神のトイレは、ウォシュレット式でした・・・)
と、今までろくなことがなかった。
もし、練習をするにしても、危険すぎる。
だが私は諦めない!
というわけで、さっそく転移の練習を始めよう!
距離が短ければ、失敗する可能性はない!・・・と信じたい。
とりあえず、簡単に転移してみる。
「【転移】:指定先を十メートル前方へ」
左目に幾何学模様が描かれ、夏の体が蒼い光に包まれる。
やがて光が収まると同時に、私もその場から消えた。
あー、うん。分かっていましたとも。
結果からいうと失敗しました。
十メートル前方へと転移したはずが、さらに一キロメートル前方に転移したみたいだよ。
「ん?」
なんか人が・・・っは!?和服幼女が倒れてる!?
「だ、大丈夫?」
「・・・大・丈・ひっ!!」
おおっと、いけないいけない。ちょっとヨダレが・・・。
静香ちゃんの温もりを知った日から幼女見たら抱き締めたくなるんだよね・・・変態って言わないで!!
「ごめんなさい。なんでもないよ。それより大丈夫?」
「・・・お」
「お?」
「・・おなか・・・すい・・た」
おお、空腹で倒れたのか・・・。
何かあったかな?あ、そういえば・・。
「干し梅食べる?」
ん?何で干し梅なんだって?美味しいじゃん干し梅。あの駄菓子屋で売ってるやつ。分かる人には分かるはずだよ!必ず携帯してるよ?
「あ・・ありが・・と」
「うんうん。いっぱいあるからた~んとお食べ」
「うぅ、すっぱい。でも・・おいしい。おいしいです」
涙を流しながら干し梅をたくさん頬張る和服幼女。
なんだろう。これ・・・。
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
「はい。どういたしまして」
和服幼女ちゃんは、食べ終わるとしっかりとお礼を言ってくれた。
「あ、あの」
「ん?どうしたの?」
「わ、わたしのこと視えてます?よね」
「そりゃあ、干し梅あげたし、話してるし」
「いい眼を持っているようですね」
ニコニコと笑顔で和服幼女ちゃんが話してくる。
それにしてもいい眼をしてるって、どういうことだろう?
「いい眼って?」
「わたしの姿が見えていることですよ」
「?・・どういうこと?」
「自己紹介がまだでしたね。わたし、この町の土地神やってます。葵と申します」
「土地神?それって、この町の神様ってこと?」
普通、こんなことを話す子供がいたら信じないだろう。
だが私は妖精である感想ちゃんから修羅神仏も普通に存在しているということを聞いて知っていたため、こうして信じることができる。
「疑ったりしないんですね」
「今さらだからね」
「どんな日々を過ごしてきたんですか・・・」
「私、実は異世界人だからね」
「なるほど。この地球に飛ばされてきたんですか・・・さすが、世界の溜まり場ですね・・・」
「世界の溜まり場?」
「はい。世界の溜まり場。この町は、あらゆる世界と最も繋がりやすい土地なのです。もともと仕事が嫌になった神々が身を隠すのに使用することの多い土地だったこともあり、数多くの神々が集まるにつれ、神気溜まりができ、あらゆる世界と繋がりやすくなったのです。特殊な力や体質を持った人がこの町に存在するのも、この神気の影響ですね」
感謝します名も知らぬ神様方!あなた方のおかげで私は秋くんと出会えました。ありがとうございます!
「それで、あなたがいい眼を持っているという話に戻るわけですが、そもそも神であるわたしは、姿を顕現していないと普通は見えないのですよ」
「なっ!?」
ということは、私は今、周りの人から見たら一人でしゃべっている残念な人!?
ついに私も変人の仲間入り!?
でもなんで私だけ見えるんだろ?あっ!
「・・・すべてを見通す【真理の魔眼】」
私は右目に手を当てる。
「多分それですね」
「ねぇ、葵ちゃん!顕現してよ」
「無理です。今のわたしには神の力がほとんどありませんから」
「?」
「つまり神気が少なすぎて実体化出来ないのです」
「え?私、触れてるよ?」
「認識できているのなら触れることが出来るんですよ。まぁ、わたしが視えている人なんて、ほとんどいませんけどね」
「なるほど。・・・ところで何で空腹で倒れたの?というか、神様もお腹すくの?」
「そりゃあ、すくものはすきますよ。トイレだって普通に行きますし」
「ああ、うん。それは知ってる」
「?まぁ、いいです。それでわたしが視える人に頼まないと食べ物が食べられないのです。顕現していないわたし達神々は、わたし達のことを認識している人から食べ物を貰うか、お供え物として、貰うしかないんです。社は小さく、町にぽつりとあるようなものですし、お腹がすいても、ある程度は神気を使って何とかなるのですが、なにぶん土地神という、小さな神ですからね・・・」
「つまり、これ以上は神気がもたない状態になって空腹が限界に達して倒れていたと」
「はい。あなたが通ったのは幸運でした」
神様も大変なんだね。
「姉さんがいたら【言霊】で何とかなるのですが・・・」
「葵ちゃんお姉さんいるの?」
「はい。姉が一人。全然似ていませんけどね」
「へ~。それで、【言霊】って?」
「それはですね、神気が強い神は、自らの言葉を現実化させる力を持っていることがあるのです。姉さんはその一人ですね。まぁ、デメリットもあるのですがね」
「デメリット?」
「しゃべるとその事が全て現実化して、制御困難。だから日常会話ですら、注意しないといけない所ですかね。幼いころに一度姉さんが知り合いの神に意地悪された際にバカ!と言ってしまったばっかりにバカな神が存在しますね」
「不便なんだね。親近感わいてきたよ。私も自分の力がうまく使えないからね」
「それとは少し違うと思いますが・・・」
そんなことないよ!!
「つまり、お姉さんがいれば食うに困らなかったと」
「そういうことです。あっ!そういえばあなたの名前をお聞きしていませんでした」
「ん?私?上山夏だよ。夏って呼んでね」
「では、夏さん。この度は本当にありがとうございました何とお礼を申せばいいのやら」
「いいっていいって」
「いえ、仮に神であることを含めても命の恩人に何もお礼をしないわけには・・・」
「じゃ、じゃあ、一つだけお願いきいてもらってもいい?」
「は、はい。わたしに出来ることなら」
「じゃあ、ちょっと、だっ、抱き締めても、いい?えへ、えへへ」
「は、はい。か、構いませんよ」
露骨に嫌な顔されたよ~。
おおっと、またヨダレが・・・。
私は葵ちゃんを抱き締める。
静香ちゃんと比べてもそしょくない、素晴らしい抱きごこちだよ。
あ~温かい。やわらかい。いいにおい・・・もう気にしないよ。
「幸せ~。えへへ~」
「そ、そうですか・・それは良かったです・・・」
私は葵ちゃんを抱き締めているためにその顔は見えないけれど、葵ちゃんが今どんな顔をしているかは、手に取るように分かるよ。
私はそんなことは気にせずにしばらくの間、葵ちゃんをたんのうした。
「ありがとう。葵ちゃん」
「お役に立てて良かったです・・・」
私の肌はとてもつやつやしていることだろう。
なぜだろうか?私は危険な方向へと新たな歩みを進めている気がするのだが・・・。
「ねぇ、葵ちゃん、お姉さんは今どこにいるの?」
「昔、急に社をでていきました・・・それ以来会っていないですね。ずっと探しているのですが」
「なんか、ごめんね」
「いえ・・・」
葵ちゃんが苦笑いを浮かべその顔に陰りがさす。
とても悲しそうな顔だ。
「良かったら私も探すの手伝おうか?」
「そんな、わるいですよ」
葵ちゃんには、そんな悲しい顔をしてほしくない。
私は葵ちゃんには笑顔でいてほしい。
「大丈夫だって、その代わりいつでも私の抱き枕になってくれれば」
「正直お断りしたいです」
「えぇーーーー」
「そんなこの世の終わりみたいな顔をしないでくださいよ!」
「だって、だって~」
「あぁ、泣かないでください。分かりました分かりましたから。手伝ってください。抱き枕にでも何でもなりますから」
「へぐっ、ほ、本当?」
「ええ、よろしくお願いします」
「あ゛、ありがと~」
葵ちゃんがため息をつく。まるで、てのかかる子供を相手にしているお母さんみたいな目をしている。
その顔には陰りは見当たらない。良かった。
今、思い出したことがある。背中にたくさんの視線が刺さっているのだが、そういえば葵ちゃんは、普通は見えないんだったよ。
あはは~・・・。
その視線から逃げるように私は、葵ちゃんを連れてそそくさとその場をあとにする。
大衆による痛い視線から逃げたあと、私達は古い小さな社の前にいた。
「ここがわたしの社ですね」
「・・・」
私は無言でその小さな社を見ていた。
社の大半は苔に覆われている。
扉は壊れ、中もひどい有り様になっている。
もうずいぶんと長く手入れがされていないようだ。
「もう、何年も前から人が来なくなりました。山へと続く道すがらにある小さな社ですからね。姉さんが出ていったこともあって、さらに神気が薄まってますし。でも、大丈夫ですよ。なんたって私は土地神ですからね。どんなことでも何とか乗り越えられます」
「ねぇ、葵ちゃん」
「何でしょうか?」
「私の家に一緒に住まない?」
「それは、ずっとあなたの抱き枕になれと?────っ!!」
葵ちゃんは苦笑いを浮かべ私の方を向き、私の真剣な目を見て息を飲む。
そう。私は真剣だ。
ここまでなるまで放置されていたのだ。例え社を直しても、また空腹で倒れてしまうだろうことは目に見えている。
もちろん、葵ちゃんを抱き枕にしたい。だが、そんなことは二の次でいい。私は葵ちゃんが心配なのだ。
「私は葵ちゃんが心配なの。あなたがまた、空腹で倒れるんじゃないか。一人で寂しくないのか。葵ちゃんには幸せに笑っていてほしいの。そんな悲しい顔じゃなくてさ」
「・・・あなたは分かりませんよ」
ぽつりと葵ちゃんが言う。
えぇ、私には分からない。神である葵ちゃんは、私には想像もつかないほどの長い年月を過ごしてきたのだろう。そこに、たくさんの喜びもあれば、たくさんの悲しみもあったのだろう。
「私には葵ちゃんの苦しみは分からない。けど、あなたをこのままにしておきたくない」
「・・・」
「一人が辛いのなら、辛いと言えばいい。たくさんの悲しみで、心が押し潰されそうなら全部吐き出せばいい。私は聞いてあげる。あなたを視ることができる私が」
「・・・」
「お姉さんはを探すのだって、協力する」
「どうしてそこまでするのですか?わたしはあなたと出会ったばかりなのですよ」
葵ちゃんが口を開く。その声は小さく聞き取りずらいが、私の耳はしっかりとその声を拾う。
「私ね、まだ幼い頃に両親を亡くしてるんだ。でもね、私にはお兄ちゃんがいるの。両親がいなくてもお兄ちゃんがいてくれたから辛くはなかったんだ。お兄ちゃんは私のことを第一に考えてくれたからね。でも、葵ちゃんは今は一人で、その瞳は孤独に泣いている。だから、一緒にいたいの。私じゃ役不足かもしれないけれど。少しでもあなたの孤独が埋められるなら」
「わたしは、寂しいなんて・・・」
「お姉さんがいなくなってしまって、とても辛かったでしょ?今まで隣にいた人が急にいなくなって、とても寂しいかったでしょ?だったら、一緒に探そうよ。何年の月日がたっても。ずっと。私はいつまでも片時も離れずあなたのそばにいるからさ」
「人であるあなたは、いづれわたしと別れる日が来ます。人は寿命にはかてませんから・・・ごめんなさい。いじわるでしたね」
苦笑いをこぼす葵ちゃんに私はふと微笑む。
「大丈夫だよ、私には寿命が無いからね」
「?どういうことですか」
「私のお兄ちゃんは物理チートなんだけどね、私も普通にチートなんだよ。私の能力に【存在の上書き】っていうのがあるんだけどね、その力はその名の通り、存在を上書きすること。昔、って言っても3年前なんだけどね。興味本意だったんだけど、不老不死になれるのかな?って思って、永遠に尽きることなき存在に私の存在を上書きしたの。人にはすぎた力だったせいか、それ以来いろんな制約が付いちゃって、もう元には戻せないんだ。」
葵ちゃんは目を見開いて硬直している。
後で聞いた話だけど、その力は神の力の一つであるそうだ。
【言霊】【創造】【管理】【設定】【時空】【審判】【契り】【輪廻】【神託】と、他にも数多く存在するが、その中でも、【存在の上書き】は、かつて、高位神が人の子と恋に落ち、愛を誓うも、すぐに別れが来ると、人の子の寿命の短さを嘆いた際に偶然生まれたれた力だそうだ。その力で高位神は、相手の人の子を永遠の存在とし、永遠の愛を誓ったと言われている。
「何で、その力を・・・」
「ん?【存在の上書き】?生まれつき持ってるよ」
「夏さん。その力は神の力ですよ」
「ん~やっぱり?」
「はい。神の中でも今まで保有者が一人しか確認できていません」
「へ~」
「へ~って、興味ないんですか・・・」
「うん。だってさ、神の力でも何だろうと、この力のおかげで、葵ちゃんと、一緒にいられるからね。いづれ皆寿命を迎えるだろうし、私も永遠を共にする人ができて嬉しいよ」
「本当に、バカな人ですね」
「それは聞き捨てならないな。これでも私、結構博識なんだよ」
「そうですか」
「そうですよ」
私と葵ちゃんは、視線を交わし互いに微笑みあった。
葵ちゃんは、本当に嬉しそうに笑った。
その笑顔は年相応にかわいらしいものだ。
葵ちゃんは実際はロリBBAだが、そんなこと関係ない!
「夏さん、今失礼なこと考えてませんか?」
「そ、そんなことないよ?」
「目が泳いでますよ」
「・・・」
はぁ、と、葵ちゃんがため息をつく。
私は葵ちゃんと手をつないで、私の家へと向かう。
そういえば、今日から毎日葵ちゃんを抱き枕にできるんだよね?えへへ。
「っ!!」
「どうしたの?」
「いえ・・・」
葵ちゃんの背筋に一瞬悪寒が走ったのだった。




