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物理的に化け物な彼と実は異世界人な私  作者: 暁 紅陽
高校入学編
8/10

儚い青春の幻想&お兄ちゃんのバイト先

 机の上に山を形成するプリントの束を前で、私は頭を抱えていた。

 それにしてもこの量は多すぎだと思う。

 なにこの山?

 急な改革を進めた国の国王の執務室のような感じだよ。

 いじめ?いじめなの?

 七瀬先生じょうおうさまいわく


「あなたにはこれぐらいは出さないと~課題バツと呼べないですからね~」


 とのことだ。

 なぜ私には課題バツが発生しているのだろうか?

 ただ、ドSっぽいと書いただけなのに。

 職権濫用ではないだろうか。言ったところでどうにもならんだろうが・・・。


「夏。大丈夫?手伝おうか?」

「ありがとう秋くん。だけど大丈夫だよ。三時間あれば終わる量だから」

「この量を三時間ってすごいわね~♪」

「俺様はいつまでも終わるきがせんな」

「・・・『同感』」


 世界検索を使えばもっと早く終わるんだけど。何かズルみたいで嫌なんだよね。

 私は静香ぬいぐるみちゃんを抱き締める。

 うん。この抱きごこちは世界一だね。

 あ~温かい。やわらかい。いいにおい・・・なんか私が変態にきこえる・・・。


「ところで夏ちゃん♪これから静香ちゃんとカフェでお茶しにいくんだけど~♪一緒にどうかしら~♪」


 何と魅力的な話だろうか・・・。

 だが!!

 お兄ちゃんと大家さんの戦闘が脳裏に蘇る。

 出来ればずっと知らないふりをしていたかった・・・。

 だけど、私の罪悪感がハンパない。

 あれだけの戦闘音から察するに、戦地周辺の家々は崩れ破壊され、道は砕け歩くこともままならないこととなっているはずだ。

 確実に地形変動を起こしていることだろう。

 近所の人たち無事かな・・・?

 いや、考えるだけ無駄だ。二人を信じよう・・・。

 周辺の被害を修復出来るのは私だけだろうし、早く帰らなければならない。


「ごめんなさい。今日は急いで帰らないといけないんです」

「あら~♪残念ね~♪じゃあ、また今度一緒に行きましょうね~♪」

「・・・『また明日』」

「上山さん、鳴神、また会おう」

「うん。バイバイ」

「さようなら。また明日」


 三人は教室を出ていき、私と秋くんだけが残る。


「夏。一緒に帰ろ」

「はい。帰りましょう」


 秋くんと一緒に帰れる!

 秋くんと二人、互いに寄り添いあって。

 そして、手を繋いで帰るというイベントが!


 と、思っていた時期もありました。


 そんな幻想もうそうは儚く崩れさった。

 校門を潜り抜けると同時に!

 ええ、そうですよ!私は左に秋くんは右にと帰り道の方向がちがったんです!


「夏。またね」

「さようなら。秋くん」


 そんな短い会話で秋くんと別れて家へと向かう。

 ああ、恋とは何か?青春とは何か?

 これでは、朝、一緒に登校することすらできないではないか・・・。

 雨の日に一つの傘の下で肩を寄せあって下校することもできないではないか・・・。


「はぁーーー」


 私は二重の意味でため息をつく。

 それはある意味予想通りの光景だった。

 まず・・・何も無い。

 うん。文字通り意味だよ。

 私の家はもちろんのこと、近所の家やコンビニ、スーパーマーケットなどが建っていた場所などが、およそ2キロに渡って更地クレーターになっている・・・。

 月面ならばよく見る光景だ。

 しかし、ここは地球であり、さらに日本である。クレーターなんぞ探してもそうは見つからん!はずだ・・・。

 だが、その実行犯達ふたりの姿が見当たらない。

 逃げたか・・・。

 とりあえず、元通りに戻せば戻ってくるだろう。


「【存在の上書き】:影響範囲をお兄ちゃんと大家さんの戦闘により被害を受けたものすべてに設定。時間を3時間前に設定。3時間前の状態へと上書きを開始」


 と、スキルを発動すると同時にまるで映像を逆再生させたようにだんだんと建物などが再生していく。

 すごい脱力感と共に体がふらつく。

 ふと肩に手がかけられて、体を支えられる。

 振り替えると兄である夏樹がいた。

 どうやらお兄ちゃんが体を支えてくれたようだ。


「夏。すまないな」

「大・・じょう・ぶ」


 あなたにはたっぷりと説教をしなければならないのだから。




 時刻は深夜零時。自宅のアパートにて

 私!復活!


「夏、起きたか」

「起きたかじゃないよ。しっかりと説明してねお・兄・ちゃ・ん♪」

「あ、あははは」


 私の目だけが笑っていない笑顔に苦笑いを返す夏樹。


「まぁ、だいたい予想はつくけど・・・大家さんの地雷でもふんだんでしょ?」


 これまた苦笑いを返す夏樹。

 これが意味することは肯定ということだろう。


「それよりも妹よ聞いて欲しいことがある。バイトのことなんだが・・・」

「またクビになったの?」

「それはそうなんだが、なぜクビになったのか分からなくてな」


 ・・・。

 う~ん。たぶんろくでもないことをしでかしたんじゃないかな?

 お兄ちゃんがクビになる理由って、店壊したとか、商品を使い物にならなくしたとか、喧嘩腰だった客をボコボコにして(もちろん手加減して)店前に吊るしたりと、その他もろもろもひどいからね・・・。


「お兄ちゃん、今回は何したの?バイト先での出来事話して。そこから推測するから」

「おお、よろしく頼む」


 ◆◇◆


 日がようやくのぼる頃、夏樹はバイト先へと歩みを進めていた。

 今回で十五件目のバイト先。今回こそは1ヶ月続けてみせると決意を固くしていた。

 いつも長続きしないバイト。このままでは本当に妹のヒモになってしまう。

 妹の夏は、この世界にきて数日で一財産を築き上げ、お金の心配はしなくていいよ。と、言ってくれたが、兄として、いや、一人の男として、自分の生活費ぐらいは自分で何とかしようと思い、バイトを始めた・・・。

 食費や、その他日用品は妹に頼っているし、せめて、アパートの家賃だけは!と思い、日々頑張ってきたのだが、なにぶんバイトが続かない・・・。


 今日は弁当屋でバイトだ。

 ゆっくりと静かな商店街を歩いていると、店が見えてくる。

 まだ早朝のためシャッターが降りている。

 夏樹は軽くノックするとこの店の店主が顔を出した。


「今日からお世話になる上山夏樹です」

「おお、兄ちゃんが新しいバイトくんか、よろしくな」


 改めて夏樹は店主をみるが、弁当屋で弁当を売っているイメージがまったくと言っていいほど、まったくわかない。

 背丈は190を優に越えるだろう。

 さらに、今にも服が破れそうなほどの素晴らしい筋肉や、黒く焼けた肌にスキンヘッド、その堀の深い顔立ちは、いかつさを何倍にも膨れ上がらせる。


「とりあえず中に入ってくれ、商品の整理するから」

「了解っす」


 商品である弁当は、店主が一人で作っているらしい。

 その巨漢で料理をしている姿を想像するのは難しい。

 だが、作る商品の数々はどれも、素晴らしいの一言につきるだろう。

 見ているだけでもヨダレが垂れてくる。

 おかずの配置のしかたが完璧だ。

 エビフライなど、今にも動き出しそうなほどキラキラと輝いて見える。

 その他栄養面にも気を使い、カロリーは控え目で、満腹感と満足感を感じられるように食材や調味料にも工夫がされている。

 それでいて、値段は近場のコンビニの弁当とそう変わらないと言うのだから、今まで損してきた気分になる。


「HAHA!驚いたか夏樹!どれもうまそうだろ!」

「あぁ、俺はあんたを尊敬するぜ」


 店が開店すると同時に、店の前には行列ができていた。


 半ば予想できたことだが、これほどとは・・・。


 夏樹は店主への評価をまた一段とあげつつ、レジ打ち作業に徹した。


「おい、夏樹!遅れてるぞ」

「店長すまねぇ、様々なバイトでレジを担当してきた俺だが、こんなに忙しいのは初めてだ」

「HAHA!そうだろそうだろ。何たってうちは、行列ができるラーメン店ならぬ行列ができる弁当屋だからな!」


 あんまり面白くねぇよと、会話を挟みながらも仕事を続ける。


「お待たせしました。ご注文の鮭弁二つと海苔弁一つです。ありがとうございました」


 客をさばいてもさばいても、次々と押し寄せてきやがる。


 夏樹は汗を拭いつつ仕事を続ける。

 ふと、壁にかけられた時計を見る。

 もうすでに二時間も経過していた。

 二時間客足が途絶えないとか・・・。

 と思いつつも、レジ打ちのスピードを上げていく。


 ドン!


 ・・・・・・・・・・・・・。

 やってしまった。

 勢いをつけすぎてつい力加減が・・・。


「おい夏樹!どうしたんだ?すごい音がしたが・・」


 店主は壊れているレジをみても嫌な顔ひとつせずに夏樹に声をかける。


「壊れちまったもんはしかたねぇ、電卓渡すから、それでレジを続けてくれ!」

「店長!すまねぇ感謝する」


 店主に対する夏樹の評価がまた大きく上がる。

 そして、次々と客をさばいていると店主が声をかけてきた。


「そういや夏樹、お前、妹とかいないか?」

「あぁ、かわいい妹がいるぞ」

「やっぱりか、夏ちゃんだっけか?よく、美麗みれいちゃんが話てるよ」

「あぁ、名前は合ってるが、みれい?ちゃんって、誰だ?」

「三丁目のアパートの大家だよ。おっかねぇので有名な」

「大家殿が!」

「あぁ、その大家殿が今日は夏ちゃんの入学式だとか何とか言ってたんだが、お前は行かなくてよかったのか?聞けば二人暮らしだとか言っていたが、って!おい!夏樹!」


 そう聞くや飛び出していった夏樹に店主は声をかけるが、もうその姿は見当たらない。


「なんちゅう素早さだ・・・」


 そして店主は辺りの惨状をみわたす・・・。

 カウンターを飛び越えていったばかりに、足が引っ掛かったのか、前方へとカウンターが倒れている。普通ならあり得ない話だが、そこは、夏樹の物理チートを考えるとなんとか理解できる。

 もちろん商品である弁当も全てがダメになっている。


「あいつ、クビだな」


 夏樹が帰って来た頃には全てが元通りになっていたため、商品をダメにしたことには気づかずに、クビ宣告され、理由が分からないままバイトが終了した。

 ちなみにバイト代は、貰えたようだ。

 こんなところにも店主の優しさがうかがえる。


 そして、アパートに帰ると、大家さんが帰ってきていて、夏樹は見事に地雷をふみぬき、まぁ、ほとんど大家さんの八つ当たりなのだが・・・今に至るわけだ。


 ◆◇◆


 夏は夏樹の話を聞き、始めに思ったことは、


 大家さんの名前初めて知ったよ!


 だった・・・。

 このアパートにお世話になって、一年半。今まで謎だった大家さんの本名がついに判明したよ。


「夏、分かったか?」


 おおっと、いけないいけない。危うく当初の目的を忘れるところだった。

 だいたいは察しがつくけど・・・。


「お兄ちゃんに質問します」

「お、おう」

「店を飛び出していったとき、どこから出たの?」

「カウンターを飛び越えていったぜ」

「うん。原因が分かったよ」


 夏はあきれ顔で兄を見る


「たぶんカウンターに足でもぶつけて、倒したんじゃないかな?」

「なっ!?ん?まてよ、確かに何か足に当たったような・・・」


 はい。確定ー。原因判明。今度謝りに行かないとね~。それにしてもそのお弁当、とても食べてみたいんだけど・・・。

 うん。今度謝りにいくついでに買って帰ろう。


 コンコン

 と、玄関からノックの音が聞こえる。

 こんな深夜に誰だろう?


「お、大家様!?」

「こんばんわ、なっちゃん。こんな夜遅くにごめんなさいね。でもどうしても確認しておきたいことがあるのよ」


 扉を開けると、そこには先ほど本名が判明した美麗さん。もとい、大家さんが立っていた。

 うん。ヤバイね。笑顔が怖いよ。

 大家さんはまだ二十代って言っても通じるぐらいだから、よく彼氏とか出来るんだけど、いつもハズレくじなんだよね・・・。

 こうやって笑顔のときって大抵ろくなことが無いんだよね。

 お兄ちゃんなんて、部屋の隅で膝を抱えて震えてるし・・・戦闘の後何があったんだろうか?

 ん?私が大家さんを大家様って呼ぶ理由?そんなの恐怖から自然に口からこぼれ出たんだよ。


「お、大家様。確認したいこととは・・・?」

「ねぇ、なっちゃん。あなたに男ができたそうね。詳しく聞かせてもらえるかしら?」


 何で知ってるんだよ!

 てか、最近できた彼はどうしたんだよ!またハズレくじか!?

 ああ、それが地雷か。

 さしずめその話で話題をそらそうとしてお兄ちゃんは・・・。


「そ、それはその・・なんと言いますか・・・」

「なっちゃん正直に言った方が身のためよ。夏樹くんで色々とやったんだけど、まだ物足りないのよね~」


 いないと言ってもいると言っても、どのみちやられるんですね・・。


「は、はい。彼氏が出来ました。入学式の前日にッ!!!」


 えぇ、覚悟はできていましたとも。

 今私は大家さんに関接技を極められている。

 それは二時間にも渡り、私の体は悲鳴をあげ、眠れなかったことは言うまでもないことだろう。

 ちなみにお兄ちゃんは震えながらもしっかりと話は聞いていたようで、認めない認めない認めないと、呪文のように呟いていた。

 お兄ちゃんが認めるとか認めないとか、関係ないと思うんだけど・・・。

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