お兄ちゃんと大家さん
「何故だ・・・何故またクビになるんだ。いったい俺の何がいけないんだ・・・」
ここに頭を抱えながら帰路にたつ青年が一人。
その頭上には常に疑問符が踊っている。
「ただ俺は妹の入学式を見に行っただけなのに・・・。店長は行ってもいいと言ったじゃないか・・・それなのに何故・・?」
「あら?夏樹くんじゃない。お帰りなさい。その様子だと、またバイトをクビになったってところかしら」
声をかけられてふと顔をあげると、そこには、この世界に来た当時からお世話になっているアパートの大家さんがいた。
ホウキをもっているので掃除中だったらしい。
「なっ何故わかったし」
「あらあら何年の付きあいだと思ってるのよ」
「それは、大家殿が丁度あと一日で四じゅ・・」
夏樹が年のことを話そうとした瞬間に大家さんの後ろに般若が顔をみせた。
とてもいい笑顔だが、その目だけが笑っていない。
夏樹は冷や汗をびっしゃりとかいている。
「どうしたの?夏樹くん?丁度あとい一日で何だって?言いたいことがあるならはっきりと言いなさいな。あと私は永遠の二十歳よ」
「大家殿さすがにそれには無理が」
「あぁん!?」
「ひぃッ!!」
大家さんの殺気に思わず悲鳴をあげる夏樹。
前の世界で夏樹のことをよく知っているものが今の夏樹を見たら、信じられないと誰もが思うだろう。
大胆不敵。何者にも恐れず、いつも余裕をみせていた、かつて世界最強の怪物とまでいわれた人物が一人の女性の前で冷や汗を大量に流しながら悲鳴をあげているのだから。
このままではまずいと思い夏樹は話題を変えようと試みる。
「お、大家殿、とっところで、今の彼氏とはうまくいってい・・・」
ヤバイ地雷だった!と思ったらもう遅い。
ホウキがあり得ないスピードで飛んできていた。
夏樹はしゃがんでホウキをかわす。
「おっ大家殿!危ないじゃ、うわっ!!」
大家さんの拳が夏樹の頬をかすめる。
夏樹の頬からは血が流れ、後方でその拳を受けた石垣は粉々に粉砕されている。
「大家殿!俺じゃなかったら、今頃頭部が消滅してますよ!!」
「それぐらい分かってるわよ。これがなっちゃんだったら、関接技を何発か極めているだけなんだけど・・・その点、夏樹くんは丈夫だからね。全力で殴れるサンドバッグって、なかなかないのよね」
「ねぇ!今、サンドバッグって言った!?つまりただの八つ当たりじゃねぇか!!」
「ふふふ。そのとうりよ。彼とは馬が会わなくってね。私の体目当ての変態だったわ。最初は全然わからなかったんだけど・・・。そうと分かった瞬間全力で殴ってやろうかと思ったんだけど、さすがに警察のお世話になるのは嫌だから、その場でサヨナラしてやって忘れようとしていたのだけれど・・・。やっぱりストレスは溜まるものよね。彼のことを思い出したら無償に腹が立ってきてね。というわけで、夏樹くんヨ・ロ・シ・クね?」
「冗談じゃなッ!!」
夏樹は前方に転がる。
先程夏樹が立っていた場所にはクレーターができており、その中心には、かかとを降り下ろした体制で停止している大家さんがいる。
夏樹の頬に汗が伝う。
「夏樹くん避けてばかりじゃつまらないわよ。ちゃんと当たってくれなきゃ」
(・・・やるしかないのか)
一瞬で夏樹の前に拳が迫る。
夏樹はそれを両手でとらえる。
「ようやくその気になったみたいね」
ウフフと、大家さんが不適なえに笑みを浮かべる。
夏樹は大家さんの横腹めがけて蹴りをいれる。
だか、その足は空を切る。大家さんは後方へと下がり、もう一度夏樹に迫る。
「大家さん。貴方何者ですか?魔王より強いですよ!」
夏樹は上空へと飛び上がり、大家さんの拳を回避する。
「そういえば、なっちゃんと夏樹くんは異世界から来たんだったわね。初めてなっちゃんの魔法を見たときビックリしたのを覚えてるわ」
大家さんは夏樹同様に難なく飛び上がり、蹴りをいれる。
「その世界で敵無しだった俺が、戦闘で押されてるとかなんの冗談ですか。なぜこの平和な日本に貴方のような怪物が存在するんですか」
夏樹は空気を足場として大家さんの蹴りを避ける。
「あら、分かりきった事じゃないかしら。夏樹くんのように、異世界から来た人もいれば、転生者や特殊な力や体質を持った人、修羅神仏なんかも、普通に生活してるわよ?」
大家さんも夏樹同様に、空気を足場として空中に立っている。
「知らなかったよ!!そんなんで大丈夫かよ日本!」
「ちなみに私は特殊な力を持った人ね」
「教えてくれると助かるんだけど、どんな力なんですか?」
「別に教えてあげてもいいわよ?おとなしくサンドバッグになってく・れ・る・な・ら♪」
「全力でお断りだ!命がいくつあっても足らんわ」
「ふふふ。特別にいいものを見せてあげるわ。ちゃんと避けてね。いくら夏樹くんでも消滅しちゃうかも」
大家さんはそう言うと胸の前に魔法陣を作り出す。
「お、大家殿?なんで、魔法陣なんか使えるんですか?」
「それはね、私の力に関係するのだけれど」
大家さんは魔法陣をその拳で殴り付ける。
その魔法陣からは、光の閃光が放たれる。
夏樹はその閃光の危険性を本能的に察知して全力で回避する。
その閃光は丁度のぼっていた月を貫き更に延びて行く。
「なんつー砲撃放つんだあんたわ!当たったら死ぬじゃねぇか!!」
「だから避けてって忠告したじゃない」
「そんなの関係あるか!撃とうと思い付いた時点でダメだと気づけよ。月に穴あけるとか・・・」
「大丈夫よ。三日月や満月に続いて『ドーナ月』ができただけじゃない」
「いや、あんたのせいでもう満月が拝めなくなったよ!」
「さぁ、続きといきましょうか」
夏樹の近くに魔法陣が展開し、その中から大家さんが出てくる。
「な!転移!?」
大家さん若干微笑むと拳がふるわれる。
夏樹の回避は間に合わず地面へと叩きつけられる。
「ぐはっ!!」
「ちょっとやり過ぎたかしら。ごめんなさいね夏樹くん」
「大家殿。正直ここまでこけにされたのは初めてです。今まで何度も手合わせをしてきましたし・・・いつもお遊びの延長戦でしたが、今日は本気ですか」
「本気よ。多分。ストレスが今まで以上に溜まっていることだしね」
「まだ本気じゃ、ないんですか・・・」
はぁ、と夏樹はため息をつく。
「じゃあ、こちらもある程度本気で相手しないといけないようですね」
「これ以上本気でやると被害がえらいことになるわよ」
「今さらですね。どうなっても、夏にまかせれば直りますし」
「【存在の上書き】かしら?」
「なんで知っているんですか」
「それこそ、今さらよ。どんなことでも知っているわ。昨日から遠出してて、なっちゃんとは会えなかったけど、今日帰ってきたら取り合えず色々と、聞かなければね。その体に」
「何のことですか?」
「なっちゃんに男ができたことよ」
「なん・・だと」
「本当よ」
「そ、そうやって、俺の油断を誘ってるんだろ?」
「夏樹くん。あなた、そうとうの、シスコンになってしまったらしいわね」
さっきの比べ物にならないほどの速度で夏樹は殴りかかる。
その拳が大家さんの腹をとらえる。
だが、大家さんにはあまり効いていないようだ。
「ホントに重症だわ。ちょっと矯正してあげないといけないね」
それから再び始まった戦闘は2時間に渡り、夏樹が最期(死んではいない)に残した言葉は「夏に、男が・・・俺は絶対に認めねぇぇぇ!」だったそうな。




