7章 冬の女王
お城の中にある書斎に冬の女王様はいらっしゃるらしく、使用人の方に案内してもらうことになった。ただ、僕の隣にはシランさんはいない。冬の女王様のご意向で、僕だけしか会いたくないとのことだった。僕というか、僕が変身しているトードという男の人しか会いたくないようだ。
使用人の方が書斎の扉を開き、僕だけを中に通してくれた。書斎の中は、天井に届くほどの本棚が壁一面に備えられ、数え切れないほどの本がずらっと並んでいた。窓は1つしかなく、その窓辺に1人の女の人が窓の外を眺めている。雪のような白い肌に腰まで届く長い髪。白いドレスを身に纏った冬の女王様がそこにいらっしゃった。僕がいることに気づいたのか、体を僕の方に向き直した。
「お待ちしておりました、トード様。お会いできて…本当に…嬉しいです。」
なぜか瞳に涙を浮かべながら、ゆっくり、丁寧に言葉を選んでいるようで、僕は少し戸惑い、どうしたら良いかわからず、お辞儀をして挨拶することしかできなかった。
「良かったらそちらの椅子に腰掛けてください。すぐ、お茶を用意させますので。」
部屋の隅に、小さな机と2人がけ程度のソファがおいてあったので、僕は言われた通り座った。部屋の本棚を眺めて見ると、国の歴史や地理、経済などこの国に関する本が多く並んでいる。そうかと思えば、世間で流行りの小説やこの国の言葉ではない文字で書かれた本も置いてあった。
しばらくして、冬の女王様と先ほどの使用人の方が戻って来た。僕の目の前に薄緑色のお茶がおかれた。白い湯気とともに深緑の香りがとても心地いい。
「私のお気に入りのお茶です。お口に合えば良いのですが。」
僕の隣に座ると、カップを手に持ち、そっと口にあてられた。僕も目の前にあるカップを手に取り、お茶を口へ注ぐ。茶葉本来の苦味が苦にならない、すっきりとした味だった。体全身がポカポカと温まる。美味しい、と言いかけたところでぐっと言葉を飲み込んだ。
「…どこか具合でも悪いのですか?先ほどから何もおっしゃっていらっしゃらない気がするのですが。」
僕はニセモノで喋ったらニセモノだとバレてしまう。喋ることはできない。苦肉の策でわざとらしい咳払いをゴホッゴホッとすることにした。
「まさか…声が出ないのですか?」
冬の女王様の問いかけに小さく頷いた。本気で心配しているのを騙すようで罪悪感でいっぱいだ。けれど、これも冬を終わらせるため。頑張れ、自分。
お茶を飲み終えてカップを机に置き、僕はカバンからスケッチブックとペンを取り出した。
『冬の女王と話すときにあった方がいいだろう?』
シランさんから渡されたスケッチブック。声を出せない僕にとって、言葉を代弁してくれる大事な武器だ。僕の使命は冬の女王様を説得して城の外へ連れ出すこと。うまく伝えられるか分からない。けど、やるしかない。冬を終わらせるためにも。




