cold
土曜日。
「京子さんー」
「えっ。南美さん。どうしたの」
都会で働いてた会社の後輩の南美が、店にきた。
「休みで、彼とドライブがてら来ました」
「えー。久しぶりだねー」
南美は、「20代で結婚する」が口癖で、街コンに行きまくってた。
しかし、南美も28歳になるが、まだ結婚はしてない。今日連れてきた彼氏は、また街コンで、知り合った彼だろうか。
「南美さん、おひさしぶりです」
「リョウタさん、いっそうイケメンになりましたね。幸せなんですね」
「ありがとう」
南美には、色々イラつくこともあったが、私が流産したときは、かなり世話になったので、そう悪い子でもない。
「メニュー、けっこう色々ありますね」
「ピザも、美味しいですよ」
リョウタがピザも薦めた。
「善樹さんは、何にします?」
「オレ、明太子パスタがいいな。あとピザも食べようよ」
南美の彼氏は、少し年上ぽっい普通の人だった。でも、今度は、何処の一流企業の社員だろう。
「リョウタさん、息子さん、何歳になったんですか」
「3歳だよ」
「赤ちゃんの時見た以来だから、見てみたいです」
「じゃあ、帰りに家に寄って行って見てって下さいよ」
「寄ろうかな」
そうして、南美は、帰りに家に、恭ちゃんに会っていた。私は、休憩時間だったので、一緒に行った。
「きゃー。可愛いー。リョウタさん、そっくりっ」
「ボク。パパそっくり」
「可愛いー。リョウタさんのミニチュアみたい」
恭ちゃんは、南美のはしゃぎぶりに、少々ひいていた。
「南美さん、今度の彼は、どこの会社なの?」
私も会社名をまず聞くなんて、嫌らしいオバサンだ。
「今の彼は、◯◯証券会社なんですう」
かなりの大手の証券会社だ。
「今度は上手くいきそうなの」
「今のところは、不満ないんですけど、性格も普通すぎて」
「南美さん、普通が一番よ」
リョウタが旦那の私では、説得力には欠けるみたいだが。
「あっ。田中くんが、京子さんに会いたがってたから、そのうちに、店に来るんじゃないかな。彼女と」
田中くんとは、南美と同期で、営業の新人だった。もう、独り立ちできたのだろうか。
「田中くん、彼女できたの?」
「年上ですよ。5歳年上の彼女です。取引先の事務の人です」
「へえー。良かったじゃない」
田中くんも、年上の彼女って感じが、すごいする。田中くんのことだから、甘えてるんだろうな。
「じゃあ、彼も待ってるんで、そろそろ帰ります」
「南美さん。今日は、来てくれてありがとう」
南美を見ると、疲れた体で、必死に働いてたOL時代を思い出す。
都会は、良くも悪くも色んな人と、出会った。
何かを求め、何かを探して、そんな模索をして、生活してた。
忙しさに流されて、イラつくこともあったが、それは無駄じゃない。経験になっている。
都会の生活があったからこそ、だから、こうして、店をやれてる気がする。
良いことばかりじゃない。思い出したくないこともある。でも、無駄なんて、なかったんだろう。
店に帰ると、リョウタが咳をしてる。
「風邪?」
「ああ。なんだか熱ぽっい」
「薬飲んだら」
「こじらせたくないから、飲むよ」
風邪。恭ちゃんに、うつされたら、困る。
店が終わって家に帰ると、リョウタの風邪は、ひどくなっていた。
「37度5分ある」
ちょっと熱ある。リョウタには、悪いけど、今日は、恭ちゃんと寝てほしくない。
「リョウタ、あっちの部屋で、寝てね」
「なんだよ。熱あるのに、一人にするのかよ」
「だって恭ちゃんに、うつるものー」
「わかったよっ」
リョウタは、すねて、隣の部屋に行った。
日曜日。店休日。
「リョウタくん、風邪大丈夫なの?」
朝に母親が聞いてきた。
「熱が、ちょっとあるけど」
「今日休みで良かったわね」
「京子ー」
二階から、リョウタが呼ぶ声がした。
「リョウタくん、呼んでるわよ」
二階のリョウタの部屋に行くと
「熱が上がった」
「えっ何度?」
体温計みると、37度6分だった。たった0.1度上がっただけだ。
「頭痛い。寒気する。関節痛い。喉が痛い。死にそうだ」
また始まった。具合悪いアピールが。
リョウタの額に、新しい冷えピタを貼った。氷枕も、取り替えた。
「寒いなら、毛布増やす?」
「うん」
今日一日、リョウタは、大騒ぎな予感がする。
なんで30歳なっても、そういうとこは、変わらないかなー。
リョウタが二階から降りてきた。
「お義母さん、京子は?」
「恭ちゃんと出掛けたわよ」
「オレが熱だしてるつーのに、出掛けたのかよ」
「リョウタくんに食べさせるものを買いに行ったから、すぐ帰ってくるわよ」
「お義母さん、京子帰ってきたら、二階に来るように言ってください。」
「リョウタの好きなプリン買ってきたよ」
「オレ、京子の作ったプリンの方がいい」
駄々こねるのが始まった。
「お店のプリンは余ってないから、これで我慢して」
「オレ、病人だから、食べさして」
恭ちゃんだって、一人で食べれるつーのに。
「じゃあ、はい」
「やっぱ京子が作ったプリンのほうが、美味い。これは、安ぽっい味」
いちおう、このコンビニのプリン、200円は、したんだけどね。
今度は恭ちゃんに、プリン食べさせないと。
「恭ちゃん、プリン美味しい?」
「うんっ。ママと買ったから、美味しい」
可愛い。無邪気だ。素直だ。
「京子、またリョウタくん呼んでるみたいよ」
確かに二階から声が聞こえる。
「ママ、いっちゃ、やだ」
恭ちゃんから、可愛く引き止められる。
「ママ、ずっとボクのそばに、いて」
「恭ちゃん」
そういって、私は、あまりの可愛さに恭ちゃんを抱き締めた。
でも、どこかで、聞いたセリフだ。
二階から呼んでる人も言ってた気がする。
「京子ー」
また呼んでる。でも、恭ちゃんから離れたくないし、どうすればいんだ?
母親が私が困ってる姿を見て、笑いだした。
「お母さん、笑わないでよ。私、困ってるんだから」
「しょうがないんじゃない。リョウタくんが、もう一人増えたんだから」
リョウタが二人。でも恭ちゃんのほうが、聞き分けがいいように思える。
「恭ちゃん、パパね。お熱があって、寝てるから、ママちょっとだけ行ってくるね。恭ちゃんも、お熱あるとき、苦しいでしょう。だから、パパも今、苦しいから行ってくるから、待っててね」
「うん。すぐ来てね」
やっぱり、恭ちゃんのほうが、聞き分けいい。
二階のドア開けると
「何回も呼んでんだろうが。なんで来ないんだよっ」
リョウタは、キレ気味だった。
「恭ちゃんにプリン食べさせてたから。何?」
「鼻水でたから、ティッシュとって」
それくらい自分で取れるだろーが。少しの熱で、起きれるクセに。
「治らなかったら明日、お店休んだら?変わりにお父さんに来てもらうから」
「いや行くよ。明日まで、治す」
無理して仕事しても、お店で、具合悪いアピールされても、たまんない。
結局、リョウタは、熱が下がり、夕食も食べれました。
「まだ治りがけだから、今日も、あっちの部屋で寝てね」
ちっ、京子のやつ、人をバイ菌扱いしやがって。