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閉店して、家に帰ると、恭ちゃんが、まだ起きてた。
「ママー」
泣きながら、私のところにきた。
「ママ待ってるって、寝付けないみたいで」
母親が困ったように言った。
「恭ちゃん、ママと寝よっか」
そう言って、恭ちゃんと寝室に行った。
「恭ちゃん、抱っこする?」
恭ちゃんが、なかなか寝付けないので、抱っこした。
「ママー」
そうすると、恭ちゃんは、私の胸にもたれて、眠った。
「そういう寝かしつけ、よくないんじゃないの」
恭ちゃんが、私に抱っこされてるのを見てリョウタが言った。
「別にいいじゃない。」
「もうすぐ幼稚園なんだし、そんな甘えん坊では、困るだろ」
「甘えん坊は、リョウタの子供なんだから、仕方ないでしょう」
「それを言われると・・」
それを言われると、何も言えないオレ。
オレ専用だったものが、全部、恭優先になった。こんなオレそっくりの顔してる息子に嫉妬するのも、おかしいが。
ランチタイムの忙しさのピークを過ぎた頃、泣きながら男の子が、入ってきた。
「ボク、どうした?」
リョウタが、男の子に話しかけた。この男の子は、お母さんと、二人で、週に1、2回くらい店に来る子だ。
「ママ、来てない?」
「ママ?今日は、来てないよ」
迷子になったのだろうか。年は、恭ちゃんくらいの男の子だ。
「ママと、はぐれたんだろうか」
リョウタが、私に言った。
「ママと、どこにいたの?」
「カオン」
カオンとは、近くのスーパーだ。でも、子どもの足で、ここまで10分くらいかかる。そこから、歩いてきたのだろうか。
「ママいなくなったから、パスタ屋さん見えたから、きた。」
「ボク、お名前は?」
「レオ」
ウルトラマンレオのレオか?すごい良い名前だ。
「オレ、この子のお母さん探してるかもしれないから、スーパー行ってくるよ」
そう言って、リョウタは、スーパーに行った。
私の母親が手伝いで、まだいてよかった。
「レオくん、座って、ママ待ってようか」
レオくんは、頷いた。
「レオくん、お昼ご飯食べたの?」
レオくんは、横に首を振った。
「いつもの赤いスパゲティ食べる?」
レオくんは、頷いた。
レオくんは、いつも昔風ナポリタンを食べる。
レオくんのお母さんは、お客様を無愛想というのも申し訳ないが、笑顔があまりない陰りのあるお母さんである。
レオくんと二人できて、パスタを二つ頼んで、普通サイズのナポリタンなので、レオくんが食べきれない時は、お母さんが食べて、いつも残さず食べていく。
リョウタが、近くのスーパーに、走って行った。
スーパーに、入ると、レオくんのお母さんが、店員と、反狂乱になってレオくんを探していた。
「レオくんのお母さんですか?」
リョウタがレオくんのお母さんに言うと
「パスタ屋の店長さん?」
リョウタが、パスタ屋の店長と気づいたようだった。
「レオくん、お母さんを探して、うちの店に一人で来てます」
「レオが?パスタ屋に?」
「なんでも、お母さんと、はぐれて、うちの店が見えたから来たみたいで」
レオくんのお母さんは、安心して、倒れ込んだ。
「レオくんのお母さん、早く行きましょう」
リョウタは、お母さんを店に連れてきた。
「レオー」
「ママー」
レオくんのお母さんは、うちの店に入ってレオくんを見つけると、泣き出した。
「お母さん、落ち着いて、とにかく、座りましょう」
私は、レオくんのお母さんに言った。私も恭ちゃんが、いなくなったら、取り乱すかもしれない。
「ちょっと買い物してて、目を離したら、いなくなってしまって。目を離した私が悪いんです」
よほど必死に探したのだろう。髪は乱れて、顔色も悪かった。
私は、レオくんのお母さんに、アイスティーをだした。
「水分とって、気を静めてください」
「ありがとうございます。でも、レオが一人でパスタ屋さんに来ると思ってもなくて」
「ボク、パスタ屋さん見えたから、お母さんがいると思った」
いつも、お母さんと来てるから、うちの店を覚えたのだろう。
「ボク、赤いスパゲティ食べて、待ってた」
レオくんは、ナポリタンを全部食べてた。
「あっ。お代払います」
レオくんのお母さんは言った。
「いいです。私が勝手に出したんですから」
「すいません」
気を静めたところで、レオくんのお母さんが話しだした。
「私、主人の実家に嫁いで、誰も知り合いがいなくて、それで、主人の両親と同居だし、昼は主人もいなくて、姑と一日一緒で、息が詰まって、でも、知らない土地だし、出掛ける場所もなくて、そんな時、スーパーの近くのパスタ屋さんを見つけて、ここに来るようになったんです。私、独身時代パスタが大好きで。ここに来ることだけが、息抜きだったんです」
知らない土地に一人で来るのは、不安なことだろう。それも姑と同居では、気が休まらないだろう。
「レオくん、何歳なんですか」
「3歳です」
「うちの息子も3歳なんです。今度幼稚園ですよね。同じ幼稚園だといいですね」
私は、レオくんのお母さんに言った。
「息子さん、3歳なんですか」
レオくんのお母さんは、嬉しそうだった。
「同じ幼稚園で、良いママ友に、なれたらいいですね」
私は、レオくんのお母さんに言った。
環境の変化は、誰にでもあるかもしれない。でも、環境の変化で、バランスを崩したりする。今までの親しい人との別れがあり、新しい人との付き合いが始まる。馴染めない環境もあるだろう。
私も都会を離れ、実家で生活することになった時、不安がないわけでは、なかった。でも、リョウタが一緒に来てくれたので、寂しいと思ったことは、なかった。
リョウタは、寂しいと思ったり、不安に思ったり、したのだろうか。思ったのかもしれない。
でも、私の両親と、上手くやってくれて、店も一緒にやってくれて、感謝しなくてはいけない。
それなのに、恭ちゃんばかり優先にして、申し訳なかった。
夜、家に帰って、恭ちゃんが寝てから、リョウタと話した。
「京子、恭が迷子になったら、もっと凄く反狂乱だろうな」
「そりゃそうでしょう。母親なんだから」
「でも、良かったんじゃないか。京子も、同じ年の子供を持つママ友できて。まあ、レオくんのお母さんは、京子より若いだろうけど」
「どーせ、私は、オバサンですよ」
そうなんだよね。幼稚園入ったら、お母さん達、みんな私より若いんだろうな。田舎って結婚早いし、20代のお母さんばかりだったりして。はあー、やりきれない。
「あっ、今度の日曜日、中学の同級会に行くから、恭ちゃん見ててね」
「同級会?どーせオッサンばかりなんだから、行くなよ。」
この同級会が、とんでもなかった。




