LAST
ランチタイムが終わろうとした時に、スーツ姿の男性が入ってきた。
「いらっしゃいませ」
「Avid crownのリョウタさんですね」
その男性は、東京の大手芸能プロダクションの人だった。
ランチタイムが、終わり休憩時間に、リョウタとプロダクションの人は話をしていた。
音楽部門から、新しいバンドをデビューさせたいので、探していたところ、たまたまAvid crownのMVを見たそうだ。
しかし、Avid crownとしてではなく、リョウタのバンドを新たに結成して、メジャーデビューさせたいということだった。リョウタは、ボーカルということらしい。
「30歳ですか。年齢はサバよんでもらって、25歳で行きましょう」
30歳ではデビューに遅いということらしい。なら、わざわざ30歳のリョウタではなく、若いバンドを探せばいいだろう。
「ご結婚されてるみたいですが、それは隠してください。場合によっては、奥さまとは、離婚していただくかもしれません」
こいつ、何を言ってんだ?京子と、別れろだって?
「申し訳ございませんが、オレは、メジャーになる気はありません」
リョウタは、言った。
「返事は、まだ結構です。一時の感情で今、決断されても、後悔されると思いますよ。うちの事務所は、メジャーなバンドを何組も発掘してますから、間違いはないと思います。来週の休みにでも、東京に来て頂いて、実際見てもらって、お話をしませんか。返事は、それからで、いいです」
そう言って、その大手芸能プロダクションの人は、帰って行った。
今回が初めてじゃない。前もメジャーデビューするバンドから、リョウタは、引き抜きの話があった。
リョウタは、何か引き付ける才能があるのかもしれない。ここで、埋もれていけない才能が。
リョウタが、休憩室にきた。
「今更、メジャーなんて、何言ってんだろうな」
リョウタは、少しきまづそうに私に言った。
「リョウタの好きにしていいよ。」
私は、そう言うしかなかった。私のために、これ以上、リョウタを縛ることできない。
「なんだ、それ?」
リョウタは、一気に不機嫌になった。
いつも、和やかな家なのに、あれから、会話も少くなり、元気がない雰囲気が家で、流れていた。私の母親も父親も、無理に明るくしようとして、つまらない冗談を言ったりして、痛々しかった。恭ちゃんも私が元気がないのに、気づいたのか、私にベッタリだった。
水曜日。
「京子、なんで止めないのよっ」
私は花江に、話を聞いてもらった。
「だって。リョウタが、やりたいなら、止められない。リョウタは、メジャーになる素質あるのかもしれないし」
「京子のお父さんと、お母さんは、なんて言ってるの?」
「両親も、リョウタの好きなようにさせなさいって言ってる。こんな田舎に婿に来てもらっただけで十分だし、縛ることは出来ないって」
私は、話をしていて、だんだん涙目になってきた。
「随分、物わかりのいい家族なのね。リョウタくんは、もう結婚して、子供がいるのよ。家庭があるの。それを、今更、メジャーになるから東京行きます?30歳の家庭持ちの男がすることじゃないでしょう。」
花江は、だんだん声が大きくなり、イラついてるようだった。
「でも、リョウタのやりたいこと、止められない」
「もうっー、イラつくっ。なにを寛大な奥さんぶってるのよ。リョウタくんが行きたいって言ったって、泣きついてひき止めたらいいじゃない。京子は、奥さんなんだから、ひき止めて当然なのよ。京子が、そんなんじゃ、リョウタくんが可哀想よっ。ほんとは、京子にひき止めて欲しいのかもしれないじゃないっ。そうやって、寛大なふりしてればいいのよっ。良い子ちゃんぶって、むかつく。私はイケメンの味方だからね。京子の気持ちなんか、理解できないっ」
花江は、怒って帰って行った。
だって。ここで、何が出来ると言うの。
こんな田舎で、才能をある人を、縛り付けて、それで、いいわけない。可能性があるなら、送り出してやらなきゃいけないかもしれない。
リョウタには、感謝しきれない。一緒に、ここに帰ってきてくれて、子供を諦めていた私に、子供ができて、私は、リョウタの子供に会えた。私がリョウタの子供を産むことができた。
だから、これ以上、無理を言えない。
日曜日。
リョウタは、10時の新幹線に乗るらしい。
東京の大手芸能プロダクションに、行くためだ。
「パパー。おみやげー」
恭ちゃんは、リョウタに手を振った。
「リョウタくん、気をつけて行ってきなさい」
母親が言った。父親も、無理に笑顔を作っていたが、それが、締め付けられた。
リョウタが駅に行くと、駅は、やたら、混んでいた。
駅の前には、町の人が大勢いた。
「リョウタくんっ。京子は、本当は、リョウタくんに行ってほしくないのよ。寛大ぶってるだけよ。京子と恭ちゃんを捨てて東京行ったら、私が許さないわよっ」
花江がいた。
「リョウタ、東京は住みにくいって。生活するなら、ここのほうがいいよ」
翼くんがいた。
「リョウタさん。メジャーになって、たとえランキングに入ったとしても、食べていけないですよ。すぐ解散しますよ」
駿くんがいた。
「やっぱさ、イケメンいないと、この町も活性化しないからさ。行かないほうが、いんじゃないの」
真吾くんがいた。
「そうよっ。イケメンは必要よ。主婦の楽しみをなくすなんて、店長ひどいわっ」
常連の主婦達がいた。
「店長ー。行かないでください。私達が、大人になるまで、ここで、見守っててください」
咲ちゃんと、ハンドボール部の三人組と、絢斗くんがいた。
「おにいちゃん。だめだよ。家族は大切にしないと」
幸恵おばあちゃんが、息子さんといた。
「店長っ。行かないでください。」
町の人が全員でひき止めた。
リョウタは、気まづそうに、頭をかいた。
「東京行って、ハッキリ断りに行こうと思ったんだよ。京子が、あんまり素っ気ないから、頭きて、契約するふりしてみせただけ」
リョウタは、最初から断るつもりだったらしい。
「断るなら、電話でいいじゃん。実際行ってしまうと、うまい話に丸め込まれて、契約書にサインさせられてしまうぞ。」
真吾くんが言った。
「それも、そうか」
リョウタは、妙に納得した。
リョウタが家に帰ってきた。
「京子ー。リョウタくんが帰ってきたわよー」
お母さんが、喜んで騒いでいた。
「パパー」
私と恭ちゃんと、両親は、リョウタを迎えた。
「なんか駅に、町の人が大勢いて、新幹線に乗れなかった」
リョウタは、少し照れたように言った。
「いいの?」
私は言った。
「言ったろ。オレの夢は京子と一緒に、店をやることだって。バンドは、趣味になったんだよ」
4月から、恭ちゃんが幼稚園に行きます。
来週、一日入園があるので、リョウタと夫婦そろって、参加します。
抜けていた二話を足しました。




