マーケティング
4日から、永野安奈さんがアルバイトに来ている。
昼は学校の準備と、引越先の準備などがあるため、ディナータイムに来てもらっている。
永野安奈さんは、4月からパティシエの学校に行くために、私とリョウタがいた都会の学校に行き、26歳にして初めての独り暮らしをする。家から通えない距離ではないが、一人でやってみたいそうである。
忙しい時はホールも手伝ってもらってるが、キッチンを主に手伝ってもらってる。うちの店で、パティシエの勉強になるかどうかは分からないが、一生懸命働いてもらってます。
ランチタイム。
「いらっしゃいませ」
店に、スーツを着て、アタッシュケースを持ったサラリーマン風の男性が二人で入ってきた。
この辺のサラリーマンではないだろう。都会のサラリーマンが、営業中に、立ち寄ったのだろうか。
サラリーマンの二人は、席に座ると、店内を見渡した。一人は、パソコンを取り出した。
周りのお客さんをチェックしてるようだった。
「店員が、かなりイケメンだな」
「そうですね。しかし、アルバイトで、あれくらいのイケメンを揃えるのは難しいですよ。モデル事務所から引き抜くしかないですね」
二人は、ボソボソと喋りだした。
「だから女性客が多いな。女性からの指示を得るのは強い。特に主婦層をつかめば、家族でも来るし、ママ友とも来るだろう。大きな顧客になる」
一人は、喋ったことをパソコンに入力している。
なんなの?偵察?ライバル会社?
この個人経営のパスタ屋に、ライバル会社もないが。
「パスタ。注文どれにします?和風と洋風それぞれ頼みますか」
「そうだな。トマトソースの味もみてみたいしな。あとピザだな」
「すいません」
注文が決まったようで、サラリーマンの二人はリョウタを呼んだ。
「ご注文、お決まりでしょうか」
「パスタは、モッツェラのトマトソースパスタと、水菜の大根おろしパスタと、ペペロンチーノ。あとピザは、チーズ色々ピザを頼みたいんだけど、どんなチーズ使ってるんですか」
一人が、リョウタに質問してきた。
「モッツェラと、ゴーダと、レッドチェダーのチーズを使っております。」
リョウタが答えると、
「ふーん。ワイン飲めそうだな」
一人が、ボソッと言った。
「デザートのお薦めは?あまり甘くないのがいいな」
「でしたら、クルミのパウンドケーキは、いかがでしょうか。クルミの食感もいいので、甘さは強くしておりません」
「じゃあ、私は、それ。」
「私は、ババロアにします」
どうやら、このサラリーマンは、パスタ、ピザ、デザートを一通り食べるみたいだ。
「昨日今日のバイトではないみたいだな。メニューは、一通り説明出来るみたいだな」
オレは、バイトじゃねーつの。店長だ。
「ホールに一人と、調理場に一人か。満席なのに、二人でサービス行き届くのだろうか」
「二人では、トラブった時に、対応が難しいですね」
言いたい放題である。
「大変、お待たせしました。」
リョウタがサラリーマンにパスタを運んだ。
サラリーマンは、デジカメを取り出し、パスタの写真を色んな角度から撮っていた。
サラリーマンは、三種類のパスタをそれぞれ取り皿にとって、食べだした。
「この大根おろしのパスタ美味い。麺の固さも和風に調度いい。こんな美味しい大根おろし食べたことない。辛さもない」
水菜と大根おろしのパスタを食べた一人が、リョウタを呼んだ。
「この大根おろしの大根は、産地どこ?」
「地元の専業農家から、仕入れております。今、時期的に、大根が採れる時期なので、本日採れた大根を使っております」
「新鮮そのものって、わけね」
サラリーマンは、妙に納得したようだった。
「このトマトソースのパスタも美味しいですね。トマトソースが、酸味が調度いい」
もう一人のサラリーマンが、モッツェラのトマトソースパスタを食べて言った。
ピザにも、満足したようで、二人で、完食した。
パスタとピザを食べ終えたので、リョウタがデザートとコーヒーをサラリーマンに運んだ。
「うん。甘さ控えめで、クルミが引き立っている。パスタを、食べた後に、調度いい甘さだ」
「パスタ食べたあとに、ジトーッてくる甘さのデザートでは、パスタより、デザートの味が強くなりますからね。昨日行った店が、まさにそれでしたよね。後味の悪い甘さが、いつまでも残りましたよ。ここは、調度いいですね」
サラリーマンは、デザート食べて、評価していた。昨日の店って、この辺の店を偵察に回ってるのだろうか。いったい、何物なんだろう。
「ちょっと、シェフを呼んでくれる?」
サラリーマンが、リョウタに私を呼ぶように言った。
「本日は、ご来店ありがとうございます。私、オーナーシェフの笹原と申します。」
サラリーマンの二人は立ち上がった。
「ほう。オーナーさんですか。だったら話が早い。私、こういう者です」
二人は私に名刺を差し出した。
名刺を見ると、関東で100店舗は、出店している人気のパスタ専門店の会社だった。
「今度、関東だけではなくて、こちらの地方にも店を出そうと思ってましてね。どの地域がいいか、調査してるところです。地域性もありますので、こちらの街にきて、美味しいパスタ屋はないかと、聞いて歩いたところ、こちらの店をあげる方が、多かったものですから、来たわけです。」
「わざわざ、ご来店頂きまして、ありがとうございます。」
「でも、この町では、出店は難しいですね。この人口人数では集客がつかめないです。かなり美味しくないと、リピーター客を、作るのは難しいですね。こちらの店のお客さまが、よそのパスタ屋に目移りするとは思えない。あと、これだけのイケメンのアルバイト店員を揃えるのも難しいです。」
だから、オレは、アルバイトじゃないつーの。
サラリーマン達は、やはり地方都市での出店が濃厚だろうと言って、帰って行った。
「あー、疲れた。あれこれ根掘り葉掘り聞かれて、疲れたよ」
さすがに、リョウタは、ぐったりだった。
確かに、いつ大手のパスタ専門店が、進出してきても不思議ではない。
この田舎も国道沿いに、新しい店が、次々に出来ている。
大手チェーン店のパスタ専門店が、出来れば、ファミレス感覚で、入りやすいかもしれない。
うちの店のような個人経営のこじんまりした店では、いつ潰されてもおかしくないだろう。
これからも、手を抜くわくには、いかない。
日曜日。
リョウタが、真吾くんが会わせたい同級生と会うといって、出掛けた。
「リョウタくん。オレの同級生で、甲斐尚之」
真吾くんは、リョウタに同級生を紹介した。
「近くで見ると、ほんとイケメンだね」
甲斐くんは、リョウタを見て言った。
「リョウタくん、ライブやりたいんだって?この倉、好きに使っていいよ」
そこには、広い敷地内に、古い造りの倉があった。
甲斐尚之くんは、地元でも有名な酒の蔵元の息子さんである。
明治時代からある蔵元で、必ず跡を継ぐ約束で、東京の大学に行き、卒業後、酒造メーカー就職し、一年前に会社を辞め、跡を継ぐために、帰ってきたらしい。
「いずれ跡を継ぐから、大学んときは、好きなことやらさせてもらった。バンドやっててさ。こっち帰ってきても、楽器やりたいから、親に使ってない倉もらって、改装したんだ。古い造りだから、建物しっかりしてるから、音ももれないと思う。ライブやりなよ」
その倉は、今すぐにもライブが出来そうに、改装されていた。




