きっかけ。
初詣が終わってから、県境の温泉に行く。現地で、リョウタの両親と待ち合わせている。
お正月しか、連休とれないので、家族でゆっくりしたい。
「おばあちゃん、おじいちゃんー」
恭ちゃんが、リョウタの両親を見つけると、駆け寄った。
「恭ちゃんー。また大きくなって」
頻繁には会ってるのだが、リョウタのお母さんには、大きくなったように見えたようだ。
ずっと、私の両親とリョウタの両親が、恭ちゃんの相手をしていたので、私とリョウタは、旅館の部屋で、くつろいでいた。
「京子、内風呂入ろうよ」
「えー。親たちが、寝てからね。」
内風呂がある旅館にしたのである。外風呂に露天風呂もある旅館である。
「ママー」
恭ちゃんが帰ってきた。
恭ちゃんは、私の所にくると、私の胸にもたれたー。
「あふー。幸せ」
やはり、おじいちゃん、おばあちゃんを喜ばせようと、気を使ったのだろうか。
「ご満悦だな。やっぱママが一番か」
リョウタは、恭ちゃんの顔を見て、言った。
一泊二日なんて、あっという間で、二泊にすれば良かったと後悔をする。
チェックアウトしてからは、温泉郷みたり、温泉饅頭食べたり、山奥にある手打ちうどんの店に行ってりして、お正月休みを満喫した。私の両親もリョウタの両親も楽しんでくれたみたいで、良かった。
一方、地元のとある宴会場では、中学の同級会が行われていた。
お正月の同級会とあって、総勢60人が参加した。
「花江ー。京子は来てないの?」
鈴子が、花江に聞いた。
「家族で温泉に行ったらしいよ」
「そうなんだ。ママ友と女子会やるから、店予約お願いしたかったのにー。あとで電話するしかないか」
「京子、結局、あの年下の彼と結婚したんだね」
花江と鈴子が、話してるところに、香織が来た。私が独身のときに、絶縁した香織である。
「京子もバカよね。私が薦めた旦那の同僚と付き合ってれば、こんな田舎に帰ってくることもなかったのに。あんなバンドやって、ヒモみたいな年下の彼と結婚するなんて。子供出来ても、夜まで働いてるんでしょう。一生、働きづめじゃないの。」
香織は、相変わらず見下したように、私を批難した。香織は、まだ公務員の旦那と結婚したことが、自慢のようである。
「私は、京子が、リョウタくんと一緒に、ここに帰ってきてくれて、良かったと思ってる」
花江が香織に言った。
「私、専業主婦で、子供にも旦那にも、相手にされなくて、毎日つまんなくて、外に出て働くにしても、私は、これといって、取り柄ないし、何ができるわけでもないし。とりあえずヨガを習ってみたりして、そんな時、京子が帰ってきて、パスタ屋をオープンしたの。田舎じゃ食べれなかった美味しいパスタとピザを食べれて、イケメンの旦那さんも連れてきて、目の保養になったわ。そして、ここで、リョウタくんのバンドのライブ見に行ったりして、青春が帰ってきたようだよ。ライブなんて、結婚してから行ってなかったから、嬉しかったー。会話の少ない娘とも共通の話題が出来たし、京子とリョウタくんに、私は感謝してる。」
花江は、言った。
「うちの中学の娘も、パスタ屋行って、店長さん、優しくて、カッコイイと言ってるよ」
向かいの席に座った謙治くんが言った。
「うちの高校生の息子も店に行って、店長さんにギターのこと教えてもらうみたいだ」
今度は、福田くんが、言った。
「うちの90歳過ぎた婆ちゃんも、イケメン店長大好きだよ」
有吉くんが、言った。
香織は、バツ悪いのか
「へえー。じゃあ、私も京子のお店に行ってみようかしら」
と言った。
「やめなよ。人の幸せのチェックしに行くのは。京子だって、なんも考えが変わらない香織に会いたくないわよ。」
花江は、香織に言った。
「香織、安定だけが、幸せじゃないよ」
リョウタの両親と別れて、夜に家に帰ってきた。
「久しぶりに、上げ膳据え膳だったわ。くつろげたわ」
「温泉も、いいお湯だったな」
両親が、ソファに座り言った。両親にも、満足してもらって良かった。いつもは、店があるから、旅行なんて、連れていけないし、温泉に連れて行くくらいしか出来ない。
「リョウタくん、運転疲れたでしょう。明日の休みは、ゆっくり休みなさいね」
母親がリョウタに言った。
リョウタは、3日の休みに、カー用品を買いに行くと、ホームセンターに行った。
「京子さんの旦那さんですよね」
リョウタが、ホームセンターで、見てると声をかけてきた男性がいた。
「オレ、京子さんの中学の同級生で、福田と言います」
リョウタに声をかけたのは、福田くんだった。
「うちの高校1年の息子が、たまにパスタ屋さんに行くみたいで。その時に、店長さんにギターのことを聞いて、教えてくれるそうで。ありがとうございます」
「ああ。それくらい別にいいですよ」
リョウタは、あの子かなと、思い出したようだ。
「うちの息子。中学の時、不登校だったんですよ。なんとか高校には行ってくれましたが、色々、息子のことで、悩みました。そんな時、息子が、市民まつりで、店長さんのバンドを見て、息子が、好きな曲を演奏してくれたらしく、息子、店長さんのギターに感動してました。それから、自分もギターを弾きたいと思ったらしく、今じゃ、学校で、ギターの話をする友達も出来たみたいで、休まず高校行ってます。私は楽器は、なんも出来ないので、父親なのに、教えてやること、出来ませんが、店に行って、店長さんに教えてもらったと喜んで帰ってきます。今度、友達とバンド組むって言ってます。中学のときの不登校の息子じゃ考えられません。あの息子に熱中するものが、出来るなんて。昨日、京子さんが、同級会に来たら、お礼を言おうと思ってたんですが、今日、直接に、店長さんに言えて良かったです。息子、また店長さんのバンドのライブ見たいと言ってるので、今度。地元でワンマンで、やってほしいです」
福田くんは、なかば涙ぐみながら言った。
どんなに、不登校の息子さんのことで、悩んだのだろうか。
「店長さん、息子に、きっかけをくれて、ありがとうございます」
福田くんは、リョウタに深々と頭を下げて帰って行った。
100回、同じことを言っても伝わらない時がある。
言葉がなくても、音で伝わる時がある。
福田くんの息子さんは、好きな曲があったように、心は動いてたのかもしれない。ただ、行動に移せなかったのかもしれない。
リョウタが、ホームセンターから帰ってきた。
「京子の同級生の福田さんに声をかけられて、お礼を言われた」
「福田くん?福田くんがリョウタに?」
「息子さんが、うちの店に来るみたいで。そんときに、ギターのことを教えたからって、礼を言われた」
「そうなんだ。」
ライブかー。
ここに、ライブハウスがないんだよな。
リョウタは、なにかを考えてるみたいだった。




