ポイントガード
寒くなってきたので、恭ちゃんの帽子とマフラーを編み始めた。
「何、編んでんの?」
リョウタが聞いてきた。
「恭ちゃんの帽子とマフラー」
「オレのは?」
「リョウタは、手編み嫌でしょう。買ってあげるから」
「なんだよ。恭ばっか」
今の男性って、手編みのセーターなんて、着れないとか聞くけど。
リョウタは、嫌じゃないんだろうか。
買い物に行くと中学の同級生の広恵に会った。
「京子っー。久しぶりっ。相変わらず綺麗ね。私にも若さを保つ秘訣を教えてー」
なんだ。なんだ。この広恵の気持ち悪い持ち上げは。
広恵は、同じクラスになったのは、1回くらいで、特別に親しくないのに、この馴れ馴れしさは、なんだろう。
「今度、京子のお店に行くね。すっごいっ美味しいって評判よー」
「あ、ありがとう。」
この広恵の馴れ馴れしさに疑問感じたので、そのことを花江に言うと
「広恵は、『長』や『先生』がつく人が好きなのよ。京子は、オーナーだし、料理教室の先生してるから、親しいように周りに思われたいから、持ち上げて、取り入ろうとしてるのよ。私なんて、ただの主婦だし、旦那も大手企業じゃないから、私に会っても知らんぷりよ。挨拶もされないわ」
あー、人によって、態度を変える奴ね。
ランチタイム。
「京子っ、来たわよっー」
えっ。花江じゃなくて、広恵だった。さも私と親しいように手を振られた。息子さんの同級生のお母さん達と思われる人達を連れてきたみたいだ。
「広恵さん、ここのシェフさんと知り合いなの?」
「ここのシェフは、私の中学の同級生なのよ。けっこう仲良くしてたから」
早速。連れのお母さん達に、私と親しいふりをしていた。
リョウタが、水を運んだ。
「私、京子の同級生の中野広恵と申します。京子さんとは、この間もお喋りしたんですよ」
広恵は、リョウタに、ご丁寧に挨拶した。
「そうなんですか。うちの妻が、いつもお世話になってます」
リョウタが、広恵に挨拶を返した。
「広恵さん、イケメン店長と、知り合いになれて、羨ましいわー」
「まあね。」
広恵は、意気揚々だった。
まあ、でも、お客様を連れてやってきたのだから、人に態度を変える嫌な奴でも、それなりの対応をしなくてはいけないだろう。
広恵達が、パスタを、食べ終えたあと、
「こちら、シェフからです」
リョウタが、広恵達に、サービスのデザートのシフォンケーキを持って行った。
「ありがとうー。美味しそう。」
「すいません。私達まで。今日、広恵さんと来て良かったわ」
ご満足頂けましたでしょうか。
「京子、じゃあね。ご馳走さま。」
広恵は、嬉しそうに帰っていった。嫌な奴でも、接客してる上では、お客様に態度を変えては、いけない。そんなことをしたら、広恵と同じ部類になる。お客様によって、態度を変えることはしたくない。
水曜日の休み。
「良かったー。ぴったり」
恭ちゃんに、編んだ帽子とマフラーが編み上がったので、恭ちゃんに合わせた。
「ママー。暖かい」
恭ちゃんは、喜んでくれたようだ。
そうして、恭ちゃんと買い物に出掛けた。
「パパ、早く帰ってくるかな。」
「夕方まで、帰ってくるよ。お土産帰ってくるといいね」
「うんっ」
その時、恭ちゃんの帽子がとれて、風で飛んでしまった。
「ボクの帽子がー」
恭ちゃんは、帽子を追いかけようとした。
「恭ちゃん、待って、危ないから。ママがとるから」
帽子が横断歩道の方に、飛んでいった。信号が赤なのに、止まる気配がない車がきた。
「ボクの帽子が、踏まれちゃうー」
「恭ちゃん、行っちゃだめ」
私は行こうとする恭ちゃんを押さえた。その時、向こうからきた男子高校生が、スポーツバッグを放り投げた。
すると、すごい速さで、恭ちゃんの帽子を取った。
キキィー。車は急ブレーキをかけた。
「ジジィっー。どこ見てんだよ。信号は赤だぞっー」
高校生は、車を運転した老人に、怒鳴った。
「ありがとうございます。ケガありませんでしたか」
私は高校生に駆け寄って言った。
「大丈夫です。はい」
高校生は、恭ちゃんに、帽子を渡した。
「お兄ちゃん、ありがとう。」
「お礼をしたいので、お名前を伺ってもいいですか」
私は高校生に言った。
「そんなのいいです」
そう言って、高校生は、スポーツバッグを拾って、行ってしまった。
制服は、私の母校の高校だ。あんな大きいスポーツバッグを持っているということは、運動部だろうか。それにしても、すごい足の速さだ。
陸上部の咲ちゃんに、聞いてみよう。
ディナータイムに、陸上部の咲ちゃんが来たので、昨日の男子高校生のことを、聞いてみた。
「身長は170あるかないかで、黒のNIKEのスポーツバッグ持ってた。すごい足が速いの」
その高校生の感じを咲ちゃんに、言った。
「うーん。黒のNIKEスポーツバッグ持ってる運動部は何人かいるんですよ。足速いのは、陸上部の他に、サッカー部にもバスケ部にもいるし、調べてみますよ」
ということで、咲ちゃんは調査してくれるみたいだ。
「でも、京子の高校って、かなり生徒数多いから、いくら咲ちゃんだって、見つけるの難しいんじゃないのか」
家に帰って、風呂あがりにリョウタが言った。
「そうだけど。あんな危ない思いをして、恭ちゃんの帽子を拾ってくれたから、何かしたいの」
「そうだな。足速いのが決めてだな」
身長はあまり高くなくて、小柄な感じだけど、あの、すごい運動能力は、きっとすごい選手に違いない。
「いらっしゃいませ」
ディナータイムに、高校生が一人で入ってきた。
顔を見ると、あの子だっー。恭ちゃんの帽子を拾ってくれた男子高校生だ。
リョウタが、男子高校生を席に案内した時に、私はホールに行った。
「この前は、息子の帽子を拾ってくれて、ありがとうございました。」
「ああ。あの時の」
男子高校生は、思い出したようだった。
リョウタに、あの時の高校生だったことを言った。
「危ない思いをしてまで、うちの息子の帽子を拾ってくれて、ありがとうございます」
リョウタは、男子高校生に頭を下げた。
「今日は、お礼に好きなの頼んでください。パスタもピザもいいですよ」
「まじっすか?!オレ、パスタとピザ大好きなんすよ。今日も、同じクラスの美味い店を知ってそうな女子に聞いて、来たんですよ」
男子高校生は、喜んでいた。
「好きなの全部頼んでいいですよ」
「いらっしゃいませ」
咲ちゃんが来た。
「あれっ。絢斗、早速来たの?」
咲ちゃんと、男子高校生は、知ってるようだ。
「咲ちゃん、この方が、恭ちゃんの帽子拾ってくれたのー」
私は、咲ちゃんに、探してた高校生が絢斗くんだったことを言った。
「あー。絢斗なら、ありえるね」
絢斗くんは、バスケ部だそうだ。県内ベスト4に入るPGだそうだ。
今日は、咲ちゃんに、この店を薦められて来たそうである。
絢斗くんは、パスタを二種類頼んで、ミックスピザを食べた。
美味しいと、満足してくれたみたいなので、また来てくれるということだ。
今度、バスケの試合を見に行くことにした。
家に帰ってから、リョウタが牛乳飲みながら言った。
「でも、見つかって良かったじゃん。絢斗くん、すごいポイントガードらしいし。」
「うん。絢斗くんのバスケの試合楽しみ」
リョウタが、ソファに座ったとき、マフラーをリョウタの首に巻いた。
「恭ちゃんと、お揃いだよ」
「えっ。オレのいつ編んでたんだよ?」
「リョウタが、寝てから編んでた」
「京子がマフラーいつも貸してくれた専門学生ん時のバイトの帰り、思い出したよ」
リョウタは、手編みのマフラーを喜んでくれた。
「暖っけー」




